2011年01月24日

第4話 稽古開始!

 初めての練習日。ホテルで一泊をした翌日、カディールが迎えにきた。

「タカオサン・ケイコデス」

 稽古なんていう、古風な日本語を知っているのか?多少、カディールを見直して、彼の車に乗り込んだ。 時間にして二十分。道場と思われる建物に到着をしたものの…中に入って、

「なんだ、これは?」

 建物の中にはいってみると、そこには、工事現場で見ることのできるブルーシートが見えてきた。

「工事中なの?」

 はっきりとした日本語で尋ねると。

「ドージョーデス」

(そうか。道場は工事中なのか…)

「だから、道場は工事中なの?」

「ハイ。ドージョーデス」

 らちがあかない。私はブルーシートの上にのると、ブルーシートをはがしてみた。そして、ブルーシートの下に見えた物は……日本でいう座布団のようなもの。その様子を見たカディールは、

「パキスタン、タタミアナイデス」

「はあ?日本を出るとき、そんなこと聞いてないぞ!」

 町中で見られるライフルにおびえ、空港でもおびえ、誰も信用できない精神状態だったのに、柔道場までサプライズか!
 もう何も信じられなくなったとき、お腹が……

「グルグルグル……!」

 ピンチだ! パキスタンに来てはじめての腹痛。私は道場のトイレに駆け込んだ。

「グルルルル………」

 急いで大便所のドアを開けると、そこに見えたのは………アリ塚。ものの見事なアリ塚が、便器からそびえ立っていた。

「なんだ、こりゃー!」

 お腹は痛いものの、アリ塚を見た瞬間、腹痛よりもゲロが出そうな不快感に襲われてきた。

 「ウエ――、グルグ――、ウエ――グルグル…」

 上も下も爆発寸前だった。だが、道場のトイレはここ一つだけ、とにかく入場するしかなかった。

「行くぞ!」

 気合を入れてトイレにIN。リングに上がる覚悟以上の勇気を振り絞って…あり塚を直視しないように、臭いを防ぐために呼吸も止めた。

 しかし、ここで再びピンチがきた。目の前に……トイレットペーパーらしきものが、全く見当たらない。うわさには聞いていた…トイレットペーパーという習慣がないことを。
 便器の脇には、水の入った缶が一つ。

(これがうわさの水入れか!)

 始めて見るスタイルに戸惑うものの、私は日本人。郷に入れば郷に従えという言葉があるものの、

「無理!絶対に無理だ!!」

 だが、ここで必殺技。すかさずウエストポーチからポケットティッシュを取り出すと、私は日本の習慣にのっとって、事を終えた。まだ練習は始まっていない。恐るべきトイレの洗礼を受け、道場に戻ると、

「トイレは掃除しようよ!!」

 カディールに叫ぶものの、

「ハイ、トイレ、ダイジョウブデスカ?」

 意思の疎通が出来ない。畳はない、トイレはアリ塚。苦痛ばかりが伴うものの、トイレがアリ塚なのは、この道場に限った事ではなかった。高級ホテル、高級レストラン以外は似たり寄ったりの状況。特に公共施設のアリ塚はひどかった。

abc123da at 15:45コメント(1)トラックバック(0) 
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