2011年01月24日
第3話 ライフルに怯える毎日
「やばい所に来てしまった!」
だが、後悔しても、もう遅い。私は、警察の群れをかき分けて、ホテルのフロントを目指して突き進んだ。ホテルの中は、強盗が入った割には、冷静な状態だった――こんな事は、特に珍しいことではないのだろうか。
「バチバチバチ……ガーガーガー…」
フロントで手続きをするカディールとホテル職員の間で交わされる言葉。初めて聞くウルデュー語の会話だった。別に喧嘩をしているわけではないが、どうしても雑音が多いように感じてしまう。
手続きが終了をすると、一人のボーイが近づいてきた。彼は、私の鞄を持つと――と言っても、柔道着が入っているだけの紙袋だが……「こちらにどうぞ」というような英語で、私を誘導した。
エレベーターのボタンを押すボーイ。一階に到着をしたエレベーターに乗り込むと、
「ゴゴゴゴゴ―――――」
日本では聞いたことのない音がするではないか!
(本当に大丈夫かよ?)
不安は増すばかりだった。 部屋に到着をすると、ボーイが話しかけてきた。
「あなたのお世話をする・・・です」
多分、そんな英語だと思う
(こういう時は、チップでもやらないといけないな)
海外に行けば、常にチップが伴うと勘違いしている私は、財布の中から1〇〇ルピーを取り出した。その1〇〇ルピーを見た彼は
「……………」
目が点になっているではないか。日本円に換算すれば約200円。少ないと思いながらも彼に差し出した瞬間
「命以外のすべてを尽くします」……みたいな英語を…
「なんで?」
その後、彼の話を聞くことになった。パキスタンでは、医師の月給は約二万円。弁護士の月給も約二万円らしい。そして、彼の給料は……1〇〇ルピー。つまり、日本円にして約二〇〇円ということだ。
これが基本給。後は、チップや洗濯のサービスなどで賄っているということだった。目の前に一ヶ月の給料を差し出した俺は、神様に見えたのか? だがその後、町で買い物をすると、この国の物価が恐ろしく低いということを経験することになった。
2ルピー(約四円)程度で食べることの出来る屋台。質の良いジュースやお菓子を買っても5ルピー(十円)程度。 そう考えると、1〇〇ルピーとは、かなりの大金となる。ボーイが仰天するわけを、この国で暮らすにつれて、しだいに経験をすることとなった。
さて、どうしたものか。パキスタンに来たのはいいが、何もわからない。ホテルの窓から外を見ると、乾燥地帯の割には緑が多い。道路には車が渋滞し、馬車まで走っていた。
「とりあえず、出かけてみるか!」
私は、勇気を出してホテルから出かけてみることにした。気温は三五度はあるだろうか?今は十一月。日本の夏より暑い…。
「ジュースが飲みたい!」
出かけたのはいいが、この暑さに負け、早速ホテル近くの商店に入ることとなった。だが………。
「なんで?」
私はただ、ジュースが飲みたい。そして、ジュースを買うために、目の前の店に入っていこうとしているだけなのに――目の前には、ライフルを持ったガードマンが立っていた。
「俺、ジュースが飲みたいだけなんだけど!」
記憶する限り、ライフルを間ぢかに見た経験はない。たかがジュースを買いに行くだけなのに、なんで、ライフルの前を横切らなくてはならないのだ?
ナショナルチームに柔道を指導に来たとはいえ、ライフルに直面するとはっきり言って怖い。物凄く怖い。
だが、それは序曲に過ぎなかった。レストランに行っても、ジュースを買いに行っても、郵便局に行ってもライフルの前を横切らなくてはならなかった。とにかく、町中のあらゆる所でライフルを見かけ、銀行はライフルの要塞と化していた。
交番のような警察の駐屯所ではライフルの銃口がこちらを向き、その前を通ると生きた心地がしない。
「日本は平和だな………」
と、思う反面
「絶対に生きて帰りたい!」
まだ始まった指導の旅。コーチ業のことよりも、我が生命の危機を感じる日々が始まってしまった。
だが、後悔しても、もう遅い。私は、警察の群れをかき分けて、ホテルのフロントを目指して突き進んだ。ホテルの中は、強盗が入った割には、冷静な状態だった――こんな事は、特に珍しいことではないのだろうか。
「バチバチバチ……ガーガーガー…」
フロントで手続きをするカディールとホテル職員の間で交わされる言葉。初めて聞くウルデュー語の会話だった。別に喧嘩をしているわけではないが、どうしても雑音が多いように感じてしまう。
手続きが終了をすると、一人のボーイが近づいてきた。彼は、私の鞄を持つと――と言っても、柔道着が入っているだけの紙袋だが……「こちらにどうぞ」というような英語で、私を誘導した。
エレベーターのボタンを押すボーイ。一階に到着をしたエレベーターに乗り込むと、
「ゴゴゴゴゴ―――――」
日本では聞いたことのない音がするではないか!
(本当に大丈夫かよ?)
不安は増すばかりだった。 部屋に到着をすると、ボーイが話しかけてきた。
「あなたのお世話をする・・・です」
多分、そんな英語だと思う
(こういう時は、チップでもやらないといけないな)
海外に行けば、常にチップが伴うと勘違いしている私は、財布の中から1〇〇ルピーを取り出した。その1〇〇ルピーを見た彼は
「……………」
目が点になっているではないか。日本円に換算すれば約200円。少ないと思いながらも彼に差し出した瞬間
「命以外のすべてを尽くします」……みたいな英語を…
「なんで?」
その後、彼の話を聞くことになった。パキスタンでは、医師の月給は約二万円。弁護士の月給も約二万円らしい。そして、彼の給料は……1〇〇ルピー。つまり、日本円にして約二〇〇円ということだ。
これが基本給。後は、チップや洗濯のサービスなどで賄っているということだった。目の前に一ヶ月の給料を差し出した俺は、神様に見えたのか? だがその後、町で買い物をすると、この国の物価が恐ろしく低いということを経験することになった。
2ルピー(約四円)程度で食べることの出来る屋台。質の良いジュースやお菓子を買っても5ルピー(十円)程度。 そう考えると、1〇〇ルピーとは、かなりの大金となる。ボーイが仰天するわけを、この国で暮らすにつれて、しだいに経験をすることとなった。
さて、どうしたものか。パキスタンに来たのはいいが、何もわからない。ホテルの窓から外を見ると、乾燥地帯の割には緑が多い。道路には車が渋滞し、馬車まで走っていた。
「とりあえず、出かけてみるか!」
私は、勇気を出してホテルから出かけてみることにした。気温は三五度はあるだろうか?今は十一月。日本の夏より暑い…。
「ジュースが飲みたい!」
出かけたのはいいが、この暑さに負け、早速ホテル近くの商店に入ることとなった。だが………。
「なんで?」
私はただ、ジュースが飲みたい。そして、ジュースを買うために、目の前の店に入っていこうとしているだけなのに――目の前には、ライフルを持ったガードマンが立っていた。
「俺、ジュースが飲みたいだけなんだけど!」
記憶する限り、ライフルを間ぢかに見た経験はない。たかがジュースを買いに行くだけなのに、なんで、ライフルの前を横切らなくてはならないのだ?
ナショナルチームに柔道を指導に来たとはいえ、ライフルに直面するとはっきり言って怖い。物凄く怖い。
だが、それは序曲に過ぎなかった。レストランに行っても、ジュースを買いに行っても、郵便局に行ってもライフルの前を横切らなくてはならなかった。とにかく、町中のあらゆる所でライフルを見かけ、銀行はライフルの要塞と化していた。
交番のような警察の駐屯所ではライフルの銃口がこちらを向き、その前を通ると生きた心地がしない。
「日本は平和だな………」
と、思う反面
「絶対に生きて帰りたい!」
まだ始まった指導の旅。コーチ業のことよりも、我が生命の危機を感じる日々が始まってしまった。