2011年01月24日
第6話 フレッシュ・チキン!?
あらゆる食物で体調を崩した私は、飲食物への警戒心が異常なほどに高まっていった。
「これは食べても大丈夫か?」
パキスタン料理に触れるにつれて、いちいち臭いと舌触りで、警戒を強めていった。そんなある日、キャプテンのジャンギルがホテルに訪ねてきた。
「センセイ、ディナーイキマス」
キャプテンも片言の日本語が話せた。どうやら私を夕食に誘っているらしい。行く当てもないし、一人で食べるのも寂しいし、私はジャンギルの言われるままに行動した。
車に乗ること十五分。日本で言えば地方の商店街のような、両サイドに商店の並ぶ通りに到着した。だが、車が商店街に入ると、渋滞のために動けなくなった。
そのとき、ジャンギルが車の窓を開けると……。
「てめえ!道を開けないと、ぶっ潰すぞ!」
くらいの勢いで、周囲の人や車に対して、怒鳴りまくるではないか。
(おいおい…いくら柔道をやっていても、さすがにそれはヤバイだろう。ライフルで撃たれるぞ)
ライフルだらけの町を眺めながら、ジャンギルの車の中でおびえていた。
「センセイ。ココハ、イッツ、マインデス」
「イッツマイン?」
日本語と英語の混ざり合った会話の中で、「ここは私の店です」と言いたかったらしい。目の前には、洋服店があった。
「ジャンギルのお店?」
私の問いかけに、「ハイ」と、ジャンギルは答えた。そして、交差点を右に曲がると、
「センセイ、ココハ、イッツマインデス」
と、二件目の店を紹介するではないか。
「すごいね、ジャンギルは二軒も店を持ってるの?」
日本語でたずねると、ジャンギルは予想外の答えを出してきた。
「ライトサイドノストリートモ、レフトサイドノストリートモ、マイン、デス」
「はあ? 右も左も自分の店?」
店を二軒持っていると思っていた私は、その後、彼の説明で大きな衝撃を受けることとなった。要約すると――この商店街の全てをジャンギルの父親が経営する店だというのだ。
もっと正確に言えば、各商店は個人で経営されているものの、それを統括する存在。日本では想像できない存在。地域の社長なのか、王様なのか、それとも危ない家業なのか……。
私は彼の存在に多少おびえながらレストランに到着した。庭のある綺麗なレストランだった。
「センセイ…ココノチキン、フレッシュ」
「はあ?チキンがフレッシュ?」
彼の言っている意味を全く理解出来なかった。だが、レストランの庭先に、フレッシュの意味を解説してくれる状況を、垣間見ることになった。
小さな籠に入れられた鶏。籠に押し込められた鶏は、寂しそうなまなざしで私を見つめていた。
「ギャギャーーキキキーー」
何かの叫びとも思われる声が、レストランの奥から聞こえてきた。
(まさか……)
フレッシュとは……。フレッシュな鶏とは?新鮮な鶏とは?庭先の籠に入れられていた 鶏だった。
「…………」
先ほどまで生きていた鶏が、厨房の奥で絞められ――そして食肉に!確かにフレッシュではあるが…あまりにも衝撃的だった。食卓に運ばれてきたチキンの香辛料煮込み?
フォークで肉を突き刺すと、先ほどまで庭先で生きていた光景が目に浮かぶが、「ガブリ!」と、口に入れると、ものすごく美味しい。確かに味はいい。だが、生きていた姿を見てしまうと……。
その時、ジャンギルが問いかけてきた。
「グッド?」
私は親指を立てながら、「グッド」と返した。私の喜ぶ姿を見たジャンギルは喜び、チキンを食べながら何かを思案していた。
「オーケー!ネクスト、シープ」
「はあ?次はシープ?……シープ?シープ?……はあ? 羊?」
庭先には羊もつながれていた。パキスタンで最も高価な肉であり、最も好まれる肉だった。ジャンギルは、私を見つめながら、指先を羊に向けて「グッド・グッドテイスト」 と言いながら、あの羊を食べようと言ってきた。
だが、無理。 絶対に無理。生きていたチキンでさえ、違和感を持ったのに、
「目の前に生きている羊を食えるか!」
恐ろしい食生活は、まだ序曲に過ぎなかった。だが、この旅の中で、このチキンは格別の想い出となった。
しかし、驚きの食材との出会いは、これで終わりではなかった!
続く…
「これは食べても大丈夫か?」
パキスタン料理に触れるにつれて、いちいち臭いと舌触りで、警戒を強めていった。そんなある日、キャプテンのジャンギルがホテルに訪ねてきた。
「センセイ、ディナーイキマス」
キャプテンも片言の日本語が話せた。どうやら私を夕食に誘っているらしい。行く当てもないし、一人で食べるのも寂しいし、私はジャンギルの言われるままに行動した。
車に乗ること十五分。日本で言えば地方の商店街のような、両サイドに商店の並ぶ通りに到着した。だが、車が商店街に入ると、渋滞のために動けなくなった。
そのとき、ジャンギルが車の窓を開けると……。
「てめえ!道を開けないと、ぶっ潰すぞ!」
くらいの勢いで、周囲の人や車に対して、怒鳴りまくるではないか。
(おいおい…いくら柔道をやっていても、さすがにそれはヤバイだろう。ライフルで撃たれるぞ)
ライフルだらけの町を眺めながら、ジャンギルの車の中でおびえていた。
「センセイ。ココハ、イッツ、マインデス」
「イッツマイン?」
日本語と英語の混ざり合った会話の中で、「ここは私の店です」と言いたかったらしい。目の前には、洋服店があった。
「ジャンギルのお店?」
私の問いかけに、「ハイ」と、ジャンギルは答えた。そして、交差点を右に曲がると、
「センセイ、ココハ、イッツマインデス」
と、二件目の店を紹介するではないか。
「すごいね、ジャンギルは二軒も店を持ってるの?」
日本語でたずねると、ジャンギルは予想外の答えを出してきた。
「ライトサイドノストリートモ、レフトサイドノストリートモ、マイン、デス」
「はあ? 右も左も自分の店?」
店を二軒持っていると思っていた私は、その後、彼の説明で大きな衝撃を受けることとなった。要約すると――この商店街の全てをジャンギルの父親が経営する店だというのだ。
もっと正確に言えば、各商店は個人で経営されているものの、それを統括する存在。日本では想像できない存在。地域の社長なのか、王様なのか、それとも危ない家業なのか……。
私は彼の存在に多少おびえながらレストランに到着した。庭のある綺麗なレストランだった。
「センセイ…ココノチキン、フレッシュ」
「はあ?チキンがフレッシュ?」
彼の言っている意味を全く理解出来なかった。だが、レストランの庭先に、フレッシュの意味を解説してくれる状況を、垣間見ることになった。
小さな籠に入れられた鶏。籠に押し込められた鶏は、寂しそうなまなざしで私を見つめていた。
「ギャギャーーキキキーー」
何かの叫びとも思われる声が、レストランの奥から聞こえてきた。
(まさか……)
フレッシュとは……。フレッシュな鶏とは?新鮮な鶏とは?庭先の籠に入れられていた 鶏だった。
「…………」
先ほどまで生きていた鶏が、厨房の奥で絞められ――そして食肉に!確かにフレッシュではあるが…あまりにも衝撃的だった。食卓に運ばれてきたチキンの香辛料煮込み?
フォークで肉を突き刺すと、先ほどまで庭先で生きていた光景が目に浮かぶが、「ガブリ!」と、口に入れると、ものすごく美味しい。確かに味はいい。だが、生きていた姿を見てしまうと……。
その時、ジャンギルが問いかけてきた。
「グッド?」
私は親指を立てながら、「グッド」と返した。私の喜ぶ姿を見たジャンギルは喜び、チキンを食べながら何かを思案していた。
「オーケー!ネクスト、シープ」
「はあ?次はシープ?……シープ?シープ?……はあ? 羊?」
庭先には羊もつながれていた。パキスタンで最も高価な肉であり、最も好まれる肉だった。ジャンギルは、私を見つめながら、指先を羊に向けて「グッド・グッドテイスト」 と言いながら、あの羊を食べようと言ってきた。
だが、無理。 絶対に無理。生きていたチキンでさえ、違和感を持ったのに、
「目の前に生きている羊を食えるか!」
恐ろしい食生活は、まだ序曲に過ぎなかった。だが、この旅の中で、このチキンは格別の想い出となった。
しかし、驚きの食材との出会いは、これで終わりではなかった!
続く…