2011年01月24日
第7話 ベリーグッド・カープ?
フレッシュなチキンを食べ、フレッシュな羊から逃れた翌日。
「センセイ・グッドフィッシュタベマス」
「はあ? グッドなさかな?」
本日、彼の言葉の中に、「フレッシュ」はなく、「グッド」という言葉が存在した。「グッド」とはなんだ? でも、ここにきて、魚は食べていない。その欲望が、私を動かした。
「レッツゴー」
私はそう言うと、ジャンギルの車に乗り込んだ。車に乗り込むと、彼は、今から食べる魚がいかに美味いかということを力説していた。要約すると、どうも、揚げ物らしい。
「魚のフライか?」程度に理解し、またもや昨日と同じく、ジャンギルが言うには、「全て俺の店だよ」という商店街に到着した。
そして、商店街の中の一軒の店………いや、店ではなかった。そこにあったのは、古ぼけた屋台。屋台の中で、大きな鍋には、真っ黒な油が煮立っていた。
「あの色はなんだ?」
特殊な油なのか? それとも、数日も油を変えていないのか?とにかく魚の前に、鍋の中の油を警戒していた。
「ベリーグッドカープ!」
ジャンギルは、屋台に到着すると興奮していた。よっぽどこの魚が好きらしい。
それにしても、カープ。
「カープって何だっけ?」
率直に思った。カープ……カープ……カープ…「そうだ、広島東洋カープ…………鯉だ!」私は数十秒後に、カープの正体を思い出した。だが、今までまともに鯉を食したことがない。沼や池や川に生息し、けして美味な印象を持ちえていなかった鯉。その鯉が目の前に……。
相変わらず横暴なジャンギルは、屋台主に、「早く出せ!この野郎!」と言わんばかりにまくし立てていた。ジャンギルはこの商店街に来るといつもこの調子だ。やはりボスなのか?
そして、ジャンギルは私の目の前に、鯉のフライと思える物体を差し出した。日本でも記憶にないほどの食材である鯉をパキスタンで……。
「ベリーグッドテイスト!」と、魚の輪切りをフライにしたものに、ジャンギルはかぶりついている。日本のように、食材を包む紙などない、そのままの状態で――手はベトベトになった。
次の瞬間、ジャンギルは、私に強要してきた。「早く食べないと、冷めてしまうよ」というような内容で。
鯉の輪切りなど見た目も美味しそうには見えない。真っ黒の油で揚げられ、お腹もやられそうだという予感がしてきた。だが、食べるしかなかった。ここで食べなければ、二人の関係に溝がはいるかもしれない。
そして、私はゆっくりとその魚の揚げ物を口に近づけた。
しかし、口に入れた瞬間、揚げ物にもかかわらず、「プ―――ン」という強烈な生臭い臭いと感触がしてきた。もう、耐えられないほどの悪臭が、私の鼻の中をかき回していた!ジャンギルの顔を見ながら、「揚げ物だよね!」と叫ぶが、彼は笑顔で「グッド?」と、指を立てていた。
昨日のフレッシュなチキン以上の衝撃だった。衝撃以上に、内臓が受け付けない。淡水魚独特の生臭い臭いは、揚げ油にさえ勝っていた。
しかし、ここで食べないわけにはいかない。せっかく美味しいものを食べさせようと親切心で世話をしてくれているジャンギルに対して、失礼にあたってしまう。そう考えると、無理をしても食べるしかなかった。
「グッド……ナイステイスト!」
心の中で涙を流し、内臓の中で胃液を必要以上に放出し、涙腺をせき止め、嗚咽をこらえ、
「グッド!グッドカープフライ!」と、叫ぶしかなかった。
そして、なんとかこの試練を乗り越え、ホテルへ帰着。世の中にあんな生臭い魚がいるということを、人生四半世紀にして学ぶことが出来た。
だが、日本に帰って色々と調べると、カープというのは、日本でいう鯉だけではないら しい。つまり、広義でいう「鯉科」の魚。具体的には、草魚とか雷魚というような魚であったかもしれなかった。日本でイメージする鯉とは、程遠い存在であったのかもしれない。
あの生臭さは、その後、中国に行っても、台湾に行っても、絶対に臭えないものだった。 懐かしいとともに、二度と経験したくないものとなった。
「センセイ・グッドフィッシュタベマス」
「はあ? グッドなさかな?」
本日、彼の言葉の中に、「フレッシュ」はなく、「グッド」という言葉が存在した。「グッド」とはなんだ? でも、ここにきて、魚は食べていない。その欲望が、私を動かした。
「レッツゴー」
私はそう言うと、ジャンギルの車に乗り込んだ。車に乗り込むと、彼は、今から食べる魚がいかに美味いかということを力説していた。要約すると、どうも、揚げ物らしい。
「魚のフライか?」程度に理解し、またもや昨日と同じく、ジャンギルが言うには、「全て俺の店だよ」という商店街に到着した。
そして、商店街の中の一軒の店………いや、店ではなかった。そこにあったのは、古ぼけた屋台。屋台の中で、大きな鍋には、真っ黒な油が煮立っていた。
「あの色はなんだ?」
特殊な油なのか? それとも、数日も油を変えていないのか?とにかく魚の前に、鍋の中の油を警戒していた。
「ベリーグッドカープ!」
ジャンギルは、屋台に到着すると興奮していた。よっぽどこの魚が好きらしい。
それにしても、カープ。
「カープって何だっけ?」
率直に思った。カープ……カープ……カープ…「そうだ、広島東洋カープ…………鯉だ!」私は数十秒後に、カープの正体を思い出した。だが、今までまともに鯉を食したことがない。沼や池や川に生息し、けして美味な印象を持ちえていなかった鯉。その鯉が目の前に……。
相変わらず横暴なジャンギルは、屋台主に、「早く出せ!この野郎!」と言わんばかりにまくし立てていた。ジャンギルはこの商店街に来るといつもこの調子だ。やはりボスなのか?
そして、ジャンギルは私の目の前に、鯉のフライと思える物体を差し出した。日本でも記憶にないほどの食材である鯉をパキスタンで……。
「ベリーグッドテイスト!」と、魚の輪切りをフライにしたものに、ジャンギルはかぶりついている。日本のように、食材を包む紙などない、そのままの状態で――手はベトベトになった。
次の瞬間、ジャンギルは、私に強要してきた。「早く食べないと、冷めてしまうよ」というような内容で。
鯉の輪切りなど見た目も美味しそうには見えない。真っ黒の油で揚げられ、お腹もやられそうだという予感がしてきた。だが、食べるしかなかった。ここで食べなければ、二人の関係に溝がはいるかもしれない。
そして、私はゆっくりとその魚の揚げ物を口に近づけた。
しかし、口に入れた瞬間、揚げ物にもかかわらず、「プ―――ン」という強烈な生臭い臭いと感触がしてきた。もう、耐えられないほどの悪臭が、私の鼻の中をかき回していた!ジャンギルの顔を見ながら、「揚げ物だよね!」と叫ぶが、彼は笑顔で「グッド?」と、指を立てていた。
昨日のフレッシュなチキン以上の衝撃だった。衝撃以上に、内臓が受け付けない。淡水魚独特の生臭い臭いは、揚げ油にさえ勝っていた。
しかし、ここで食べないわけにはいかない。せっかく美味しいものを食べさせようと親切心で世話をしてくれているジャンギルに対して、失礼にあたってしまう。そう考えると、無理をしても食べるしかなかった。
「グッド……ナイステイスト!」
心の中で涙を流し、内臓の中で胃液を必要以上に放出し、涙腺をせき止め、嗚咽をこらえ、
「グッド!グッドカープフライ!」と、叫ぶしかなかった。
そして、なんとかこの試練を乗り越え、ホテルへ帰着。世の中にあんな生臭い魚がいるということを、人生四半世紀にして学ぶことが出来た。
だが、日本に帰って色々と調べると、カープというのは、日本でいう鯉だけではないら しい。つまり、広義でいう「鯉科」の魚。具体的には、草魚とか雷魚というような魚であったかもしれなかった。日本でイメージする鯉とは、程遠い存在であったのかもしれない。
あの生臭さは、その後、中国に行っても、台湾に行っても、絶対に臭えないものだった。 懐かしいとともに、二度と経験したくないものとなった。