2011年01月24日
第9話 ハイエナとの出会い
パキスタン到着五日目。その日は買い物に行くことにした。何故かというと、前述の通り、空港で荷物のほとんどを盗まれてしまったからだ。
ホテルを出ると、ラホールの銀座とも言える、リバリティーマーケットを歩いてみた。
とりあえず、パンツにTシャツ、ジーパンに……日本と比較して、冗談のような値段で買うことが出来た。
そして、今回の買い物のメインであるジャージとスーツ。そして革靴を買いに。さすがにこれらの商品は高いだろうと、覚悟をして商店を訪ねた。
まずはスポーツ店(のようなもの)に入ると、な…なんと……アディダスのジャージが……499ルピー! 日本円にして1000円弱だ。さすがはパキスタン。うれしくてしょうがない。黒系と青系のジャージを二着買い込むと、私は急いで帰る決意をした。
なぜならば、先ほどから私の後ろをつけてくる人影が……
「ヤバイ……かなりヤバイ!」
男は、必要以上に私の後をつけてくる。口ひげを生やし、いかつい。いくら柔道をやっているとはいえ、かなりの恐ろしさを感じていた。そして、ホテルの玄関を入ろうとすると、
「アナタ…ニホンジンデスカ?」
(はあ?めちゃくちゃ流暢な日本語? ジャンギルやカディールとは違う!)
「ワタシ、サイタマノ、カワグチニスンデマシタ…」
「はあ?川口?メチャメチャ近いじゃないか?」
「ナンデ、ココニ、イマスカ?」
「柔道を教えに来たんだよ」
「ソレハ、スゴイ。トコロデアナタ、ドコニスンデイマスカ?」
「日本で?」
「ハイ…ソレト、イマハ、ドコスンデイマスカ?」
「日本では茨城県だよ。今はシャリマールホテルにいるよ」
「イバラキデスカ? カワグチ、スゴクチカイデスネ。ソレニ、シャリマールデスカ」
「そう、それにしても、日本語上手だね」
「ハイ、ワタシハ、ニホンニ、サンエンイマシタ」
「すごいね、三年もいたんだ? 日本では何をやっていたの?学生?」
「……ワタシハ、ビザ、アリマセンデシタ。ワタシノボスハ・・・です(危ない人)」
「はあ? じゃあ、密入国?」
「イエ、ビザハ、トチュウデキレマシタ」
「途中で?……じゃあ、その後は?」
「ダイジョウブデス…ツカマルマデニ、サンネンハ、ハタライテイマシタ」
「だから、それを密入国というんだ!じゃあ、俺は帰るから!」
「チョットマッテクダサイ。アナタ、コマッタコトハ、アリマセンカ?」
「はあ?ここに来て、困ったことだらけだよ!」
「ソウデスカ…ジャア、ワタシガ、タスケマス。サポートシマス」
「はあ?なんで?なんで君がサポートするの?」
「コマッタトキハ、オタガイサマデス」
「お互い様?すごい日本語知っているね?」
急に現れた謎の男。優しそうな笑顔で、私の手助けをしたいという。信じていいものか……断るべきか。だが、そのときの私は、右も左もわからない、ただの柔道家。柔道は出来ても、この町で二ヶ月を過ごす能力も勇気も、気力も失われようとしていた時期。彼の流暢な日本語は、私の心をいやす、何よりも変えがたいものであった。
「よし、あんたひまか?」
このような失礼な言葉を、日本で話すことなどない。
「ダイジョーブデス」
「よし、それなら、今日は俺に付き合ってくれ。色々と困っているんだ!」
「ダイウジョウブデス…デモ、タダデハコマリマス」
「当たり前だ! よし、1〇〇ルピーでどう?」
「1〇〇ルピーデスカ? ニホンダト、ニヒャクエンデスネ? カンジュース、ニホンカエマスネ」
(こいつ……なかなか言うな!日本の相場で考えていやがる!)
「わかった。あんたも日本にいたなら、1〇〇は少ないな! じゃあ、2〇〇でどうだ?」
「ワカリマシタ、2〇〇ルピーデ・アンナイシマス」
たかが、日本円で400円。されど、パキスタンでは脅威の4〇〇円。ホテルのボーイの給料が月1〇〇ルピー。
そんな契約をした彼との、一ヶ月。彼の底知れぬ物欲に、私は閉口することとなった。 彼の名は……「シャヒット」。忘れようにも、忘れられない名前となってしまった。
ホテルを出ると、ラホールの銀座とも言える、リバリティーマーケットを歩いてみた。
とりあえず、パンツにTシャツ、ジーパンに……日本と比較して、冗談のような値段で買うことが出来た。
そして、今回の買い物のメインであるジャージとスーツ。そして革靴を買いに。さすがにこれらの商品は高いだろうと、覚悟をして商店を訪ねた。
まずはスポーツ店(のようなもの)に入ると、な…なんと……アディダスのジャージが……499ルピー! 日本円にして1000円弱だ。さすがはパキスタン。うれしくてしょうがない。黒系と青系のジャージを二着買い込むと、私は急いで帰る決意をした。
なぜならば、先ほどから私の後ろをつけてくる人影が……
「ヤバイ……かなりヤバイ!」
男は、必要以上に私の後をつけてくる。口ひげを生やし、いかつい。いくら柔道をやっているとはいえ、かなりの恐ろしさを感じていた。そして、ホテルの玄関を入ろうとすると、
「アナタ…ニホンジンデスカ?」
(はあ?めちゃくちゃ流暢な日本語? ジャンギルやカディールとは違う!)
「ワタシ、サイタマノ、カワグチニスンデマシタ…」
「はあ?川口?メチャメチャ近いじゃないか?」
「ナンデ、ココニ、イマスカ?」
「柔道を教えに来たんだよ」
「ソレハ、スゴイ。トコロデアナタ、ドコニスンデイマスカ?」
「日本で?」
「ハイ…ソレト、イマハ、ドコスンデイマスカ?」
「日本では茨城県だよ。今はシャリマールホテルにいるよ」
「イバラキデスカ? カワグチ、スゴクチカイデスネ。ソレニ、シャリマールデスカ」
「そう、それにしても、日本語上手だね」
「ハイ、ワタシハ、ニホンニ、サンエンイマシタ」
「すごいね、三年もいたんだ? 日本では何をやっていたの?学生?」
「……ワタシハ、ビザ、アリマセンデシタ。ワタシノボスハ・・・です(危ない人)」
「はあ? じゃあ、密入国?」
「イエ、ビザハ、トチュウデキレマシタ」
「途中で?……じゃあ、その後は?」
「ダイジョウブデス…ツカマルマデニ、サンネンハ、ハタライテイマシタ」
「だから、それを密入国というんだ!じゃあ、俺は帰るから!」
「チョットマッテクダサイ。アナタ、コマッタコトハ、アリマセンカ?」
「はあ?ここに来て、困ったことだらけだよ!」
「ソウデスカ…ジャア、ワタシガ、タスケマス。サポートシマス」
「はあ?なんで?なんで君がサポートするの?」
「コマッタトキハ、オタガイサマデス」
「お互い様?すごい日本語知っているね?」
急に現れた謎の男。優しそうな笑顔で、私の手助けをしたいという。信じていいものか……断るべきか。だが、そのときの私は、右も左もわからない、ただの柔道家。柔道は出来ても、この町で二ヶ月を過ごす能力も勇気も、気力も失われようとしていた時期。彼の流暢な日本語は、私の心をいやす、何よりも変えがたいものであった。
「よし、あんたひまか?」
このような失礼な言葉を、日本で話すことなどない。
「ダイジョーブデス」
「よし、それなら、今日は俺に付き合ってくれ。色々と困っているんだ!」
「ダイウジョウブデス…デモ、タダデハコマリマス」
「当たり前だ! よし、1〇〇ルピーでどう?」
「1〇〇ルピーデスカ? ニホンダト、ニヒャクエンデスネ? カンジュース、ニホンカエマスネ」
(こいつ……なかなか言うな!日本の相場で考えていやがる!)
「わかった。あんたも日本にいたなら、1〇〇は少ないな! じゃあ、2〇〇でどうだ?」
「ワカリマシタ、2〇〇ルピーデ・アンナイシマス」
たかが、日本円で400円。されど、パキスタンでは脅威の4〇〇円。ホテルのボーイの給料が月1〇〇ルピー。
そんな契約をした彼との、一ヶ月。彼の底知れぬ物欲に、私は閉口することとなった。 彼の名は……「シャヒット」。忘れようにも、忘れられない名前となってしまった。