2011年01月24日
第11話 シャヒットの本性…
数日後。シャヒットは仕事だと言っていた。いったい何の仕事をしているのだろうか?まあ、そんなに興味もないし、彼も話そうとはしなかった。
今日は金曜日。パキスタンでは休日。練習も休みですることもない。テレビをつけると、ずっと踊り続けている男女のミュージカルのような映画。確か、インドの映画だったと記憶をしている。
チャンネルを回すと、明らかに間違ったカンフー映画がやっていた。何が間違いか?全て間違い!ジャッキーチェンの、スローモーションのような特撮。おまけに、西洋人。言葉もわからなければ、想像も出来ない。そんな、テレビをあきらめ、勇気を出して一人で外出をしてみた。
それにしても、暑い。毎度の事ながら、熱気が皮膚を襲う。目的のないままに、ホテルの前にある公園に行こうとすると
――この、「目的のないままに」という行動がまずかった。おまけに、一人で行動することが。
普段であれば、迎えに来た柔道関係者。そして、最近知り合ったシャヒットがいるために、私の周囲に人が寄りつこうものなら、
「なに見てんだこのやろう! 見せもんじゃねえんだよ!」
というような感じで、近寄る人々を追い払ってくれるのだが、今日は無防備な一人。数十人の老婆と子供が押し寄せると……
「マネー!マネー!マネー!」
と、ものすごい勢いで迫ってきた。いくら強がっても、見知らぬ国で、大勢の人に囲まれると、日本では味わったことのない恐怖を感じることとなった。
私は急いで、ポケットからお金を取り出すが、そこにあったのは、100ルピー(200円)札ばかりだった。さすがに100ルピーを十数人にやるわけにはいかない。そう思うと、100ルピー札数枚を、ポケットにしまいこんだ。
しかし、そこからが更なる恐怖の始まりだった。普段、100ルピー札を見たことがないのか?この集団にとってはかなりの高額にあたるのだろう。
当たり前だ。1ルピー(2円)で一食食べられるのに、100ルピーは百食分。つまり、一ヶ月三食を食べてもおつりが来る。明日をも知れぬ人々には、夢のように写ったのだろうか。先ほどまで丁寧に、同情を買うように「マネー、マネー」と言っていた集団は暴徒と化した。
だが、暴徒といってもたかが老婆や子供の集団。そんなものにビビル柔道家ではないと思っていたが、必死に私の金を奪おうとする老婆や子供の気力は、日本では経験したことのない恐怖を感じさせるものだった。
ズボンを引っ張り、Tシャツを引っ張り、あわよくば財布を抜き取ろうとする集団。周囲にいる人たちは、この状況を見ても、誰一人助けに来るものなどいない。ホテルから百メートル。そんな距離が、果てしなく遠く見えてしまう。
その先の道を横切って、ホテルに駆け込めば……と、思うものの、生きることに必死な集団は、その行動を阻んでいた。
そんな時、
「てめえら!ふざけんじゃねえぞ!」
みたいな、現地の迫力ある言葉で叫んでくる青年が?私の目線は声のするほうに……そこに見えたのは?
「シャヒット! どうしたんだ?」
「アナタトイルホウガ・ベストデス」
つまり、下手に仕事に行くより、私の世話をして200ルピー稼ぐほうが得だと言いたいらしい。
「とにかく、助けてくれ!」
シャヒットは、棒切れのようなものを持ち、大声で叫んだ。
「ガリバリハニダリカリ……」
意味はわからないが、「こいつに手を出したら、俺が黙っちゃいねえぞ!」とでも言っていたのか。集団は恐れをなし、私は自由の身になった。
そして、シャヒットは、
「ダメデス・ヒトリデソトニデテハ。デルトキハ、ワタシヲヨンデクダサイ」
そんなことを言われても、当時、携帯電話はない。日本にあったとしても、パキスタンにはない。
「どうやって連絡するの?」
「ダイジョウブ。フロントニ、シャヒットトイエバ、ツナガリマス」
恐るべきシャヒット。彼は、私を生活の糧とすべく、ホテルのフロントにまで手を回していた。
物乞いの集団から逃れても、ハイエナのようなシャヒットが待ち構えている。だが、そのときの私は、シャヒットを絶大に信頼していた。どんな困難が待ち構えていても、こいつに頼めばダイジョウブだと。
しかし、ハイエナは、徐々に私のふところを犯し始めた。彼の優しさは、私の財布の中身を望む行動に過ぎなかった!
今日は金曜日。パキスタンでは休日。練習も休みですることもない。テレビをつけると、ずっと踊り続けている男女のミュージカルのような映画。確か、インドの映画だったと記憶をしている。
チャンネルを回すと、明らかに間違ったカンフー映画がやっていた。何が間違いか?全て間違い!ジャッキーチェンの、スローモーションのような特撮。おまけに、西洋人。言葉もわからなければ、想像も出来ない。そんな、テレビをあきらめ、勇気を出して一人で外出をしてみた。
それにしても、暑い。毎度の事ながら、熱気が皮膚を襲う。目的のないままに、ホテルの前にある公園に行こうとすると
――この、「目的のないままに」という行動がまずかった。おまけに、一人で行動することが。
普段であれば、迎えに来た柔道関係者。そして、最近知り合ったシャヒットがいるために、私の周囲に人が寄りつこうものなら、
「なに見てんだこのやろう! 見せもんじゃねえんだよ!」
というような感じで、近寄る人々を追い払ってくれるのだが、今日は無防備な一人。数十人の老婆と子供が押し寄せると……
「マネー!マネー!マネー!」
と、ものすごい勢いで迫ってきた。いくら強がっても、見知らぬ国で、大勢の人に囲まれると、日本では味わったことのない恐怖を感じることとなった。
私は急いで、ポケットからお金を取り出すが、そこにあったのは、100ルピー(200円)札ばかりだった。さすがに100ルピーを十数人にやるわけにはいかない。そう思うと、100ルピー札数枚を、ポケットにしまいこんだ。
しかし、そこからが更なる恐怖の始まりだった。普段、100ルピー札を見たことがないのか?この集団にとってはかなりの高額にあたるのだろう。
当たり前だ。1ルピー(2円)で一食食べられるのに、100ルピーは百食分。つまり、一ヶ月三食を食べてもおつりが来る。明日をも知れぬ人々には、夢のように写ったのだろうか。先ほどまで丁寧に、同情を買うように「マネー、マネー」と言っていた集団は暴徒と化した。
だが、暴徒といってもたかが老婆や子供の集団。そんなものにビビル柔道家ではないと思っていたが、必死に私の金を奪おうとする老婆や子供の気力は、日本では経験したことのない恐怖を感じさせるものだった。
ズボンを引っ張り、Tシャツを引っ張り、あわよくば財布を抜き取ろうとする集団。周囲にいる人たちは、この状況を見ても、誰一人助けに来るものなどいない。ホテルから百メートル。そんな距離が、果てしなく遠く見えてしまう。
その先の道を横切って、ホテルに駆け込めば……と、思うものの、生きることに必死な集団は、その行動を阻んでいた。
そんな時、
「てめえら!ふざけんじゃねえぞ!」
みたいな、現地の迫力ある言葉で叫んでくる青年が?私の目線は声のするほうに……そこに見えたのは?
「シャヒット! どうしたんだ?」
「アナタトイルホウガ・ベストデス」
つまり、下手に仕事に行くより、私の世話をして200ルピー稼ぐほうが得だと言いたいらしい。
「とにかく、助けてくれ!」
シャヒットは、棒切れのようなものを持ち、大声で叫んだ。
「ガリバリハニダリカリ……」
意味はわからないが、「こいつに手を出したら、俺が黙っちゃいねえぞ!」とでも言っていたのか。集団は恐れをなし、私は自由の身になった。
そして、シャヒットは、
「ダメデス・ヒトリデソトニデテハ。デルトキハ、ワタシヲヨンデクダサイ」
そんなことを言われても、当時、携帯電話はない。日本にあったとしても、パキスタンにはない。
「どうやって連絡するの?」
「ダイジョウブ。フロントニ、シャヒットトイエバ、ツナガリマス」
恐るべきシャヒット。彼は、私を生活の糧とすべく、ホテルのフロントにまで手を回していた。
物乞いの集団から逃れても、ハイエナのようなシャヒットが待ち構えている。だが、そのときの私は、シャヒットを絶大に信頼していた。どんな困難が待ち構えていても、こいつに頼めばダイジョウブだと。
しかし、ハイエナは、徐々に私のふところを犯し始めた。彼の優しさは、私の財布の中身を望む行動に過ぎなかった!