2011年01月27日
第12話 アントニオ猪木も悩まされた暑さの中で……
パキスタンの暑さは、沖縄とか台湾とか、そんな暑さではなかった。気温が四十度を超えると、悪いが、活動不能だ。
日本では、経験したことのない灼熱。生徒達には悪いが、完全に心はなえていたある日。道場に行くと、生徒が三人しかいない。「どうしたんだ?」みたいに聞くと、「暑くてどこかに行きました」みたいな答えが返ってきた。
私も暑さで心がなえているとはいえ、練習を逃げ出すとは!怒りはあるが、いないものは仕方がない。私を含めて四人で準備運動を始めると……滝のような汗が流れてきた。
そして、選手の目は完全に死んでいた。気温計を見ると……四十二度……死ぬかも。その時、一人の生徒が、くねくねと妙な真似をするではないか。そして、「リバー、リバー」と叫んでいた。
「リバーがどうしたんだ」と、聞き返すと、暑くて練習にならないから、川に泳ぎに行こうなどと、不謹慎な発言をするではないか。
練習を休んで川に泳ぎに行くとは何事かと、日本人コーチなら誰でも思う。だが、私の口からは「レッツゴー」という負け犬の言葉がはかれていた。
パキスタンに初めて負けた日。生徒と歩いて五分。川に到着をすると、衝撃的な事実が……なんと、休んだはずの生徒達が、泳いでいるではないか。
さて、ここが日本なら、生徒は死を覚悟するであろうが、ここはパキスタン。文化が全く違う。悪びれもせず、「先生も早く泳ぎな」みたいなことを言っていた。普通であれば完全にキレるところなのだが、この暑さに完全敗北……へたれの日本人だった。
「よっしゃ」と叫び、川に飛び込みそうになった瞬間、またしても衝撃的な事実が…。
「無理、絶対に無理」
生徒達が泳いでいたのは、衝撃的な、泥の川!「先生も早く泳ぎな」と呼ばれるものの、絶対に無理だった。暑さをしのぐか、泥水を飲んで原因不明の病気になるか…。私が選んだのは、健康だった。
楽しそうに遊ぶ生徒を横目に、一人寂しくホテルに帰る日本人。その日本人の後ろにはまた、ものごいの行列が出来ていた。
翌週の金曜日(休日)。日曜日の休日に慣れている身としては、多少の違和感があった。そんな休日に、シャヒットがホテルを訪れてきた。
「タカオサン・ドウブツエンニ・イキマショウ」
埼玉県仕込みの流暢な日本語で話されると、シャヒットという存在をたくましく思うものの、当然のごとく、有料ガイドでしかない。
「いいけど、いくら?」
「キョウハ・ヤスミデスカラ……300ルピーデ」
いつもは200ルピーのくせに、休日は割高のようだ。だが、300ルピー。たかが600円。パキスタンでは大金でも、日本人から見れば安いものだ。
「レッツゴー」
私たちは動物園を目指した。車で十五分。ラホールに一つだけの動物園に到着をすると、シャヒットは、3ルピーのコーラをおごってくれた。「ありがとう」と言うものの、ガイド料金に含まれているのだから、別にお礼を言う必要はない。
園内には、いく種もの動物たちがいた。ライオン・キリン・カバ……その他もろもろ。一見、日本となんら変わりない光景がと、思ったのだが、何故か、何故か動物たちが「痩せて」いた。
「あれ?このキリン、首の皮が…」
「あれ?このライオン、やけに…」
「あれ?カバって、もっと太っているよね?」
見る動物全て、日本の動物園動物よりやせていた。国情は、動物園動物たちにまえ影響を及ぼすのか。町を歩いている人たちも、太っている人は、金持ちだと認識できた。たくさん食べて、太れるだけの条件を備えている人たちは、パキスタンでは少数。多くの人たちは、脂肪肝になるまで食べることは出来ない。
太れることの幸せを、動物園で感じていた幸せな日だった。
※第13話は2月2日(水)更新予定となります。
日本では、経験したことのない灼熱。生徒達には悪いが、完全に心はなえていたある日。道場に行くと、生徒が三人しかいない。「どうしたんだ?」みたいに聞くと、「暑くてどこかに行きました」みたいな答えが返ってきた。
私も暑さで心がなえているとはいえ、練習を逃げ出すとは!怒りはあるが、いないものは仕方がない。私を含めて四人で準備運動を始めると……滝のような汗が流れてきた。
そして、選手の目は完全に死んでいた。気温計を見ると……四十二度……死ぬかも。その時、一人の生徒が、くねくねと妙な真似をするではないか。そして、「リバー、リバー」と叫んでいた。
「リバーがどうしたんだ」と、聞き返すと、暑くて練習にならないから、川に泳ぎに行こうなどと、不謹慎な発言をするではないか。
練習を休んで川に泳ぎに行くとは何事かと、日本人コーチなら誰でも思う。だが、私の口からは「レッツゴー」という負け犬の言葉がはかれていた。
パキスタンに初めて負けた日。生徒と歩いて五分。川に到着をすると、衝撃的な事実が……なんと、休んだはずの生徒達が、泳いでいるではないか。
さて、ここが日本なら、生徒は死を覚悟するであろうが、ここはパキスタン。文化が全く違う。悪びれもせず、「先生も早く泳ぎな」みたいなことを言っていた。普通であれば完全にキレるところなのだが、この暑さに完全敗北……へたれの日本人だった。
「よっしゃ」と叫び、川に飛び込みそうになった瞬間、またしても衝撃的な事実が…。
「無理、絶対に無理」
生徒達が泳いでいたのは、衝撃的な、泥の川!「先生も早く泳ぎな」と呼ばれるものの、絶対に無理だった。暑さをしのぐか、泥水を飲んで原因不明の病気になるか…。私が選んだのは、健康だった。
楽しそうに遊ぶ生徒を横目に、一人寂しくホテルに帰る日本人。その日本人の後ろにはまた、ものごいの行列が出来ていた。
翌週の金曜日(休日)。日曜日の休日に慣れている身としては、多少の違和感があった。そんな休日に、シャヒットがホテルを訪れてきた。
「タカオサン・ドウブツエンニ・イキマショウ」
埼玉県仕込みの流暢な日本語で話されると、シャヒットという存在をたくましく思うものの、当然のごとく、有料ガイドでしかない。
「いいけど、いくら?」
「キョウハ・ヤスミデスカラ……300ルピーデ」
いつもは200ルピーのくせに、休日は割高のようだ。だが、300ルピー。たかが600円。パキスタンでは大金でも、日本人から見れば安いものだ。
「レッツゴー」
私たちは動物園を目指した。車で十五分。ラホールに一つだけの動物園に到着をすると、シャヒットは、3ルピーのコーラをおごってくれた。「ありがとう」と言うものの、ガイド料金に含まれているのだから、別にお礼を言う必要はない。
園内には、いく種もの動物たちがいた。ライオン・キリン・カバ……その他もろもろ。一見、日本となんら変わりない光景がと、思ったのだが、何故か、何故か動物たちが「痩せて」いた。
「あれ?このキリン、首の皮が…」
「あれ?このライオン、やけに…」
「あれ?カバって、もっと太っているよね?」
見る動物全て、日本の動物園動物よりやせていた。国情は、動物園動物たちにまえ影響を及ぼすのか。町を歩いている人たちも、太っている人は、金持ちだと認識できた。たくさん食べて、太れるだけの条件を備えている人たちは、パキスタンでは少数。多くの人たちは、脂肪肝になるまで食べることは出来ない。
太れることの幸せを、動物園で感じていた幸せな日だった。
※第13話は2月2日(水)更新予定となります。