2011年02月02日
第13話 敵は…外にいるとは限らなかった!
滞在するホテルは、ラホール中心街のリバリティーマーケットにある、中堅クラスの現地資本のホテル。七階建ての建物の一階がレストランで、二階からは客室。当時は外資系ホテルが一つあったと思うが、現地資本としては、最上級だった。
そんなホテルだが、私は滞在するにつれて、悩みを抱えていた。それは……毎日、物が無くなるということ。何故か、毎日Tシャツや小物が無くなって行くのだ。
そんな悩みを抱えていたある日。練習を終えて、ホテルのロビーにたどり着くと、何故か…私のジャージと思われるアディダスのジャージを着た従業員が立っていた。
「まさか?」と、思いながら部屋に帰ると、クローゼットのなかにあったジャージが…無い!私は、エレベーターも使わないで、階段をロビーまでダッシュした。そして、従業員の胸倉をつかんで、
「俺のジャージだろう!」
と、叫んだ。キレて興奮している時は、何処の国でも日本語だった。 ロビーは騒然となり静まりかえるが、容赦はしなかった。
「Tシャツも、その他色々、お前か!」
フロントは、何が起こったのかと、目を丸くしていた。だが、その従業員もたいしたものだった。
「ガクゴガツヂリム!」
意味はわからないが、「俺のだ!」と、主張をしているではないか!だが、どう見ても俺のだった。空港で全てを盗まれ、パキスタンで買い揃えた衣服の数々まで…。
現地で買ったのだから、確かに俺のものだという100パーセントの確証はない。だが、絶対に俺のものだという、確信はあった。
それからも、彼らとの闘いは続いた。あの事件が起こるまでは………。
パキスタンに滞在中、昼寝が日課となった。午前の練習は11時半に終了し、午後は4時に開始。その間、灼熱の太陽の外に出かけるのもつらいだけだった。ホテルにいればクーラーのきいた部屋で、スヤスヤと昼寝が出来る。
そんなある日。
「ゴトゴト」
(なんだ?)
夢の中で不審な物音を聞くと、寝ボケて薄れている視界の向こうに……なにやら人影が……。
だが、その人影は消えていった。夢か……。そして、数日が経った。またしても、夢の中で……人影が。寝起きの頭で考えていた……絶対におかしいと!寝付いたらなかなかおきることが出来ない俺の生活パターンは、環境の変化という、極度の疲労のために、変化が起こっているのか?
いや、そんなはずはない。この悪夢を立証しなければならない。夢の中の人影を……。
このころ、ある変化に気がついていた。昼間、外出した日に必ず私物がなくなっていたが、昼寝をする日には、無くなっていない。
「そうだ!外出する日になくなるんだ!」
そして私は、ある作戦に出た――外出した真似をして、部屋ではりこんでいようと。そして、計画を実行する日が来た。
出かけたふりをして、事件の真相を確かめるべく、私は部屋に潜んでいた。テレビも消して、物音一つしない部屋。お風呂に隠れて……多少の恐怖と戦いながら、変化が起こるのを待っていた。その時だった。
「ガチャガチャ……」
(なんだ?)
どうも、鍵を開ける音のようだった。
(そうか……敵は合鍵を持っているのか!と、いうことは、やはりホテル関係者か?)
だが、風呂場にいるために、部屋の様子がわからなかった。ここで、一気に飛び出して、と、思うのだが、なにせ、ライフルなど当たり前の国。逆に、おかしなことにならないかと……心臓はバクバクし、恐怖で一杯だった。
だが、真相を確かめるためには出るしかない!恐る恐るドアを開けて……本当であれば、思いっきりあけたいのだが、ゆっくりと部屋に出てみると……あの、俺のジャージを着ていたボーイが立っていた。
目と目が合う!見詰め合う二人!柔道家といえども、やはり、怖い場面だった。彼も、体が硬直していた。いったい、何十秒の時間が過ぎただろうか?動けないのは俺だった……情けない話だが。
先に動いたのは彼だった。ズボンのポケットに、右手を入れると……。
(やばい!!ピストルか? ナイフか?)
硬直する私の喉はカラカラ……。
(俺の人生もパキスタンで終了か)
と、思った瞬間、彼は不思議な行動に出た。右のポケットから、白いフキンのようなものを取り出すと、
「クリーニング・クリーニング」
と言いながら、部屋中をふいているではないか!はっきり言って、完敗!泥棒にビビッた柔道家と、泥棒をごまかすために「掃除」をしていると、ごまかす泥棒従業員。彼のほうが、三枚も上手だった。
その場の結末。俺が「ノーサンキュー」と言うと、彼は部屋を出て行った。事が終わると、二人とも、腰が抜けたような、顔をしていたことだろう。
それ以来、部屋から物が無くなることは無かった。俺は彼を攻めることはしなかった。なぜなら、その出来事をフロントに説明するほどの語学力も無いし、かなりの緊張で、本当に腰が抜けていたからだ。
(やっぱり……やばいところにきたかな?)
三週間を過ぎて、再認識をしたものだった。
※第14話は2月9日(水)更新予定となります。
そんなホテルだが、私は滞在するにつれて、悩みを抱えていた。それは……毎日、物が無くなるということ。何故か、毎日Tシャツや小物が無くなって行くのだ。
そんな悩みを抱えていたある日。練習を終えて、ホテルのロビーにたどり着くと、何故か…私のジャージと思われるアディダスのジャージを着た従業員が立っていた。
「まさか?」と、思いながら部屋に帰ると、クローゼットのなかにあったジャージが…無い!私は、エレベーターも使わないで、階段をロビーまでダッシュした。そして、従業員の胸倉をつかんで、
「俺のジャージだろう!」
と、叫んだ。キレて興奮している時は、何処の国でも日本語だった。 ロビーは騒然となり静まりかえるが、容赦はしなかった。
「Tシャツも、その他色々、お前か!」
フロントは、何が起こったのかと、目を丸くしていた。だが、その従業員もたいしたものだった。
「ガクゴガツヂリム!」
意味はわからないが、「俺のだ!」と、主張をしているではないか!だが、どう見ても俺のだった。空港で全てを盗まれ、パキスタンで買い揃えた衣服の数々まで…。
現地で買ったのだから、確かに俺のものだという100パーセントの確証はない。だが、絶対に俺のものだという、確信はあった。
それからも、彼らとの闘いは続いた。あの事件が起こるまでは………。
パキスタンに滞在中、昼寝が日課となった。午前の練習は11時半に終了し、午後は4時に開始。その間、灼熱の太陽の外に出かけるのもつらいだけだった。ホテルにいればクーラーのきいた部屋で、スヤスヤと昼寝が出来る。
そんなある日。
「ゴトゴト」
(なんだ?)
夢の中で不審な物音を聞くと、寝ボケて薄れている視界の向こうに……なにやら人影が……。
だが、その人影は消えていった。夢か……。そして、数日が経った。またしても、夢の中で……人影が。寝起きの頭で考えていた……絶対におかしいと!寝付いたらなかなかおきることが出来ない俺の生活パターンは、環境の変化という、極度の疲労のために、変化が起こっているのか?
いや、そんなはずはない。この悪夢を立証しなければならない。夢の中の人影を……。
このころ、ある変化に気がついていた。昼間、外出した日に必ず私物がなくなっていたが、昼寝をする日には、無くなっていない。
「そうだ!外出する日になくなるんだ!」
そして私は、ある作戦に出た――外出した真似をして、部屋ではりこんでいようと。そして、計画を実行する日が来た。
出かけたふりをして、事件の真相を確かめるべく、私は部屋に潜んでいた。テレビも消して、物音一つしない部屋。お風呂に隠れて……多少の恐怖と戦いながら、変化が起こるのを待っていた。その時だった。
「ガチャガチャ……」
(なんだ?)
どうも、鍵を開ける音のようだった。
(そうか……敵は合鍵を持っているのか!と、いうことは、やはりホテル関係者か?)
だが、風呂場にいるために、部屋の様子がわからなかった。ここで、一気に飛び出して、と、思うのだが、なにせ、ライフルなど当たり前の国。逆に、おかしなことにならないかと……心臓はバクバクし、恐怖で一杯だった。
だが、真相を確かめるためには出るしかない!恐る恐るドアを開けて……本当であれば、思いっきりあけたいのだが、ゆっくりと部屋に出てみると……あの、俺のジャージを着ていたボーイが立っていた。
目と目が合う!見詰め合う二人!柔道家といえども、やはり、怖い場面だった。彼も、体が硬直していた。いったい、何十秒の時間が過ぎただろうか?動けないのは俺だった……情けない話だが。
先に動いたのは彼だった。ズボンのポケットに、右手を入れると……。
(やばい!!ピストルか? ナイフか?)
硬直する私の喉はカラカラ……。
(俺の人生もパキスタンで終了か)
と、思った瞬間、彼は不思議な行動に出た。右のポケットから、白いフキンのようなものを取り出すと、
「クリーニング・クリーニング」
と言いながら、部屋中をふいているではないか!はっきり言って、完敗!泥棒にビビッた柔道家と、泥棒をごまかすために「掃除」をしていると、ごまかす泥棒従業員。彼のほうが、三枚も上手だった。
その場の結末。俺が「ノーサンキュー」と言うと、彼は部屋を出て行った。事が終わると、二人とも、腰が抜けたような、顔をしていたことだろう。
それ以来、部屋から物が無くなることは無かった。俺は彼を攻めることはしなかった。なぜなら、その出来事をフロントに説明するほどの語学力も無いし、かなりの緊張で、本当に腰が抜けていたからだ。
(やっぱり……やばいところにきたかな?)
三週間を過ぎて、再認識をしたものだった。
※第14話は2月9日(水)更新予定となります。