2011年03月02日
第17話 柔道VSタクシー!(2)
さあ、タクシーは動き出した。前の座席に座るジャンギル。後部座席には、俺とカディール。運転手は、その筋と思われるほどの迫力。そもそも、パキスタンの青年男性は、ほぼ99パーセントの人がひげを生やしているため、体格がよく、普通の日本人がビビってしまうほどの、迫力をかもし出している。
タクシーは、イスラマバードを目指して走っていた。時間にして二十分くらいか?今までのパキスタンでは見たことのない、人工的な都市風景が見えてきた。
首都、イスラマバード。様々な政府機関や、大使館など……この国の、あらゆる機能がここに集中している。その前の首都が、カラチ。その前の前が、ラホール。砂漠のオアシス、ラホールと比べれば、明らかに人造的な町並みだった。
高層ビルに、整備された道路。人はあまり歩いていない。その、閑散とした町並の中を、俺たちの乗ったタクシーは走っていた。タクシーの中には、メーターのないタクシーを運転する、「ぼったくり」を目的とした運転手。前の席には、チーム一番の武闘派…ジャンギル。後ろには、この状況を楽しんでいる俺と、ナショナルチーム・ボスのカディール。
さあ……ここから、何が始まるか?車内は無言のままだった。そして、約二十分が経過。タクシーは目的の、デモンストレーション会場に到着をした。
(さあ、ここから、 エンターテインメントの始まりだ!)
俺は、心の中で叫んだ。その時、ジャンギルが、財布から札を二枚取り出し、タクシー運転手に渡した。後部座席のカディールは俺に早く降りてと、催促をしている。
その時だった…運転手が、カディールに、形相を変えて怒りだした。……すいません。ここからは、ウルドゥー語がわからないので、私の想像で和訳します…
「コラー、なんだ、この金は!」
カディールの差し出したお金を見ると…なんと…なんと…2ルピー!2ルピーとは、日本円で4円から5円くらい。もう、腹が痛くなるほどの衝撃だった。いくらパキスタンとは言え、ホテルのコーヒーは、10ルピーだった。それなのに、タクシーに乗って、約二十分も走行して、差し出した金が、日本円で約4円から5円。ぼったくりタクシーに対して、ぼったくり乗客。
パキスタン人から見れば外国人の私は、この状況を見守るしかなった。ジャンギルも負けなかった。
「てめえ…俺からお金を巻き上げようなんて、百年早いんだ!」
(あくまでも、想像だが)
「ふざけんな!この距離で、2ルピーはないだろう!」
この闘いに、カディールは参加をしなかった。全て、弟子のジャンギルに負かしている。ジャンギルは叫んでいた。
「ラホールの市場を仕切る、ジャンギル様から金を取ろうなんて!百年早いわ!」
「ふざけんじゃねえ!ラワールピンディのタクシーをなめんじゃねんぞ!」
とにかく、すごい罵倒合戦だった。だが、時間にして約三分。折れたのはジャンギルだった。ジャンギルはポケットから札を一枚取り出すと、その札を運転手に渡し、
「ダイジョウブ…イキマス」
と、不器用な日本語で話しかけてきた。彼らは、顔色一つも変えないで、あからさまに運転手を無視して歩き出した。
だが、俺は……どうしても、運転手が握っている札を見たくてしょうがなかった。ジャンギルは、いったいいくら渡したのかと。
歩き出す二人を無視して、俺の目は、運転手の手元を見入った。そして、握られていた札は……怒りながら、二人の背中に叫んでいる運転手の手中には…10ルピーが握られていた。日本円にして約20円から30円。悪いが、この状況を見ると、運転手がかわいそうになった。いくら物価が安いとはいえ、二十分も走行して、20円ではガソリン代にもならない。俺らから巻き上げるつもりの運転手も、相手が悪かった。
パキスタンで有数の格闘家を乗せてしまったことが、彼の不幸だった。叫んでいるものの、遠くを見つめながら、落ち込んでいる運転手を見ていると、俺はかわいそうになってしまった。
二人はもう、30メートルも先を歩いていた。俺は、ポケットから財布を取り出すと、50ルピーを取り出した。日本円で100円程度。その札を運転手に渡そうとしたのだが、ここでアクシデントが!なんと、運転手はその札を見ると、
「ワンハンドレット・ルピー」
と、言うではないか!要するに、倍出せと。
ここで俺は目覚めた。運転手を背に、二人を目指して猛ダッシュ!
(パキスタンで生きるとは、こういうことか!)
滞在が長くなるにつれ、経験をつむにつれ、俺はパキスタンの風土になれ親しんでいった。家族以外は信用するな!他人に厳しくあれ!……と。
日本の常識が通用しない外国では、日本風に生きることが、アダとなることも多々ある。一ヶ月も経つと、俺の人格は変化をしていった。日本人の心も、少しずつ失っていった。
※次回の第18話は3月9日(水)更新となります。
タクシーは、イスラマバードを目指して走っていた。時間にして二十分くらいか?今までのパキスタンでは見たことのない、人工的な都市風景が見えてきた。
首都、イスラマバード。様々な政府機関や、大使館など……この国の、あらゆる機能がここに集中している。その前の首都が、カラチ。その前の前が、ラホール。砂漠のオアシス、ラホールと比べれば、明らかに人造的な町並みだった。
高層ビルに、整備された道路。人はあまり歩いていない。その、閑散とした町並の中を、俺たちの乗ったタクシーは走っていた。タクシーの中には、メーターのないタクシーを運転する、「ぼったくり」を目的とした運転手。前の席には、チーム一番の武闘派…ジャンギル。後ろには、この状況を楽しんでいる俺と、ナショナルチーム・ボスのカディール。
さあ……ここから、何が始まるか?車内は無言のままだった。そして、約二十分が経過。タクシーは目的の、デモンストレーション会場に到着をした。
(さあ、ここから、 エンターテインメントの始まりだ!)
俺は、心の中で叫んだ。その時、ジャンギルが、財布から札を二枚取り出し、タクシー運転手に渡した。後部座席のカディールは俺に早く降りてと、催促をしている。
その時だった…運転手が、カディールに、形相を変えて怒りだした。……すいません。ここからは、ウルドゥー語がわからないので、私の想像で和訳します…
「コラー、なんだ、この金は!」
カディールの差し出したお金を見ると…なんと…なんと…2ルピー!2ルピーとは、日本円で4円から5円くらい。もう、腹が痛くなるほどの衝撃だった。いくらパキスタンとは言え、ホテルのコーヒーは、10ルピーだった。それなのに、タクシーに乗って、約二十分も走行して、差し出した金が、日本円で約4円から5円。ぼったくりタクシーに対して、ぼったくり乗客。
パキスタン人から見れば外国人の私は、この状況を見守るしかなった。ジャンギルも負けなかった。
「てめえ…俺からお金を巻き上げようなんて、百年早いんだ!」
(あくまでも、想像だが)
「ふざけんな!この距離で、2ルピーはないだろう!」
この闘いに、カディールは参加をしなかった。全て、弟子のジャンギルに負かしている。ジャンギルは叫んでいた。
「ラホールの市場を仕切る、ジャンギル様から金を取ろうなんて!百年早いわ!」
「ふざけんじゃねえ!ラワールピンディのタクシーをなめんじゃねんぞ!」
とにかく、すごい罵倒合戦だった。だが、時間にして約三分。折れたのはジャンギルだった。ジャンギルはポケットから札を一枚取り出すと、その札を運転手に渡し、
「ダイジョウブ…イキマス」
と、不器用な日本語で話しかけてきた。彼らは、顔色一つも変えないで、あからさまに運転手を無視して歩き出した。
だが、俺は……どうしても、運転手が握っている札を見たくてしょうがなかった。ジャンギルは、いったいいくら渡したのかと。
歩き出す二人を無視して、俺の目は、運転手の手元を見入った。そして、握られていた札は……怒りながら、二人の背中に叫んでいる運転手の手中には…10ルピーが握られていた。日本円にして約20円から30円。悪いが、この状況を見ると、運転手がかわいそうになった。いくら物価が安いとはいえ、二十分も走行して、20円ではガソリン代にもならない。俺らから巻き上げるつもりの運転手も、相手が悪かった。
パキスタンで有数の格闘家を乗せてしまったことが、彼の不幸だった。叫んでいるものの、遠くを見つめながら、落ち込んでいる運転手を見ていると、俺はかわいそうになってしまった。
二人はもう、30メートルも先を歩いていた。俺は、ポケットから財布を取り出すと、50ルピーを取り出した。日本円で100円程度。その札を運転手に渡そうとしたのだが、ここでアクシデントが!なんと、運転手はその札を見ると、
「ワンハンドレット・ルピー」
と、言うではないか!要するに、倍出せと。
ここで俺は目覚めた。運転手を背に、二人を目指して猛ダッシュ!
(パキスタンで生きるとは、こういうことか!)
滞在が長くなるにつれ、経験をつむにつれ、俺はパキスタンの風土になれ親しんでいった。家族以外は信用するな!他人に厳しくあれ!……と。
日本の常識が通用しない外国では、日本風に生きることが、アダとなることも多々ある。一ヶ月も経つと、俺の人格は変化をしていった。日本人の心も、少しずつ失っていった。
※次回の第18話は3月9日(水)更新となります。