2011年03月09日
第18話 禁断の演技
そして、デモンストレーション会場に到着。先ほどの運転手のことなど、もう頭にはなかった。
会場に到着をすると、本日の実技内容がカディールから伝えられた。だが、その内容に、俺は先ほどのタクシー以上に衝撃を受けることになった。その内容とは……日本では考えられない、今までに、やったこともない注文だった!
到着をしたのは、とあるホールだった。客席約500席。ステージには、なぜか畳が。何の説明も受けないままに、ここまで来てしまったが、体育館が武道場でおこなうかと思いきや、ステージとは…。俺たちは、カーテンで閉ざされたステージ上の畳の上に立つと、カディールから指示が出され始めた。
「センセイ・ナゲノカタヲ・オネガイシマス」
投げの形。柔道では最も簡単な形を言われると、
(簡単だけど、見ている人は、面白くないな)
と、観客側にたって考えるほどの余裕を見せていた。だが、カディールの口から次に出てきた言葉は!
「センセイ・ゴニント・タタカッテクダサイ」
「はあ?誤認?」
「ハイ・ゴニンデス」
誤認ではなく、五人だった。まあ、やれと言われればやる気力も体力もある。次から次へとかかってくる相手を、次から次へと投げ飛ばす。確かに、素人受けしそうな内容だった。でも、どういう展開で、五人を投げ飛ばすのか?一応、カディールにはリハーサルをしようと言うと、「ハイ」の返事が。カディールは、選手を呼んで、なにやら打ちあわせを……。そして、リハーサル開始。
「センセイ・オネガイシマス」
意思疎通の困難な状況で、簡単な日本語と、簡単な英語でしかコミュニケーションをとることが出来ない両者は、とにかく、実際に試技することが、最も分かり合える手段だった。
「gayjmsyoinainx」
カディールのウルドゥー語に、選手はいっせいに動き出した。
「はあ?こら!お前ら!何やってんだ!」
なんと、選手5人は、俺をめがけて一度に組み付いてきた!
「こら!なにすんだ!」
俺の叫び声に、選手たちは一瞬ひるんで、攻撃をやめた!
「カディール!!なんだ?これ!!!」
俺は叫んだ。数少ないパキスタンでの理解者を相手に、身の危険を感じながら叫んだ!
「ハイ・ゴニン・タタカイマス」
「あのね!五人と戦うのはいいけど、いっぺんに来られると、投げることが出来ないだろう!」
「パキスタンハ・ダイジョウブデス」
「はあ??日本ではそんなこと、ありえないの!」
「パキスタン・デモンストレーション・ダイジョウブ!キックモ・パンチモ・ダイジョウブ」
文化の違いとは、時にはものすごい疲労を感じることがある。郷に入れば郷に従え……などという言葉もあるが、従えないものは従えない。従った瞬間に、柔道家のアイデンティティーを、失うかもしれない……いや、失うだろう。
「俺には出来ないよ!」
「ダイジョウブ・パキスタンハ・ダイジョウブ」
「あのね、俺は、一度に掛かってくるやつを倒す、技術は、もってないから!」
「ワタシガ・オシエマス」
何かがおかしい。日本から技術指導に来ているのに、その国の監督から技術指導を受ける。それも、デモンストレーションという、本来ありえない場での技術指導。
「イチバン・ライトパンチ」
「ニバン・セオイナゲ」
「サンバン・トモエナゲ」
「ヨンバン・マワシゲリ」
「ゴバン・ウチマタ」
俺は、呆然とするしかなかった。
※次回、第19話は3月16日(水)更新となります。
会場に到着をすると、本日の実技内容がカディールから伝えられた。だが、その内容に、俺は先ほどのタクシー以上に衝撃を受けることになった。その内容とは……日本では考えられない、今までに、やったこともない注文だった!
到着をしたのは、とあるホールだった。客席約500席。ステージには、なぜか畳が。何の説明も受けないままに、ここまで来てしまったが、体育館が武道場でおこなうかと思いきや、ステージとは…。俺たちは、カーテンで閉ざされたステージ上の畳の上に立つと、カディールから指示が出され始めた。
「センセイ・ナゲノカタヲ・オネガイシマス」
投げの形。柔道では最も簡単な形を言われると、
(簡単だけど、見ている人は、面白くないな)
と、観客側にたって考えるほどの余裕を見せていた。だが、カディールの口から次に出てきた言葉は!
「センセイ・ゴニント・タタカッテクダサイ」
「はあ?誤認?」
「ハイ・ゴニンデス」
誤認ではなく、五人だった。まあ、やれと言われればやる気力も体力もある。次から次へとかかってくる相手を、次から次へと投げ飛ばす。確かに、素人受けしそうな内容だった。でも、どういう展開で、五人を投げ飛ばすのか?一応、カディールにはリハーサルをしようと言うと、「ハイ」の返事が。カディールは、選手を呼んで、なにやら打ちあわせを……。そして、リハーサル開始。
「センセイ・オネガイシマス」
意思疎通の困難な状況で、簡単な日本語と、簡単な英語でしかコミュニケーションをとることが出来ない両者は、とにかく、実際に試技することが、最も分かり合える手段だった。
「gayjmsyoinainx」
カディールのウルドゥー語に、選手はいっせいに動き出した。
「はあ?こら!お前ら!何やってんだ!」
なんと、選手5人は、俺をめがけて一度に組み付いてきた!
「こら!なにすんだ!」
俺の叫び声に、選手たちは一瞬ひるんで、攻撃をやめた!
「カディール!!なんだ?これ!!!」
俺は叫んだ。数少ないパキスタンでの理解者を相手に、身の危険を感じながら叫んだ!
「ハイ・ゴニン・タタカイマス」
「あのね!五人と戦うのはいいけど、いっぺんに来られると、投げることが出来ないだろう!」
「パキスタンハ・ダイジョウブデス」
「はあ??日本ではそんなこと、ありえないの!」
「パキスタン・デモンストレーション・ダイジョウブ!キックモ・パンチモ・ダイジョウブ」
文化の違いとは、時にはものすごい疲労を感じることがある。郷に入れば郷に従え……などという言葉もあるが、従えないものは従えない。従った瞬間に、柔道家のアイデンティティーを、失うかもしれない……いや、失うだろう。
「俺には出来ないよ!」
「ダイジョウブ・パキスタンハ・ダイジョウブ」
「あのね、俺は、一度に掛かってくるやつを倒す、技術は、もってないから!」
「ワタシガ・オシエマス」
何かがおかしい。日本から技術指導に来ているのに、その国の監督から技術指導を受ける。それも、デモンストレーションという、本来ありえない場での技術指導。
「イチバン・ライトパンチ」
「ニバン・セオイナゲ」
「サンバン・トモエナゲ」
「ヨンバン・マワシゲリ」
「ゴバン・ウチマタ」
俺は、呆然とするしかなかった。
※次回、第19話は3月16日(水)更新となります。