2011年04月13日

第21話 砂漠の国での……喉(心)の渇き

 大失態だった。あまりに唐突な攻撃のため、我を忘れて、やってはならないパンチを出してしまった。そして、今はラジオ局。カディールの通訳の元、あれやこれやと質問をされ、適当に答え、一時間の収録は終わった。

  そして、次は大使館の方々との会食。何が楽しみって、これを待ち望んでいた。でも、食事が楽しみだったわけではない。食事は、日本食がないため、ホテルの中華料理レストラン。確かに美味しい。だが、俺が求めていたのは、「日本語」。大使館の方々との、日本語での会話を欲していた。

 「今日は、ご苦労様でしたね」

 「いいえ、簡単なものです」

 「ラホールでは、生活は大丈夫ですか?」

 「はい……戸惑うことばかりですが」

  適当な社交辞令で話していたが、私には、今回重要な目的があった。日本大使館の人なら、私の望みをかなえてくれるだろう!絶対にかなえてくれるはずだ!その望みとは、ビールを飲むこと。

 「すいません。このホテルに、ビールはありませんか?」

  大使館の人は、ちょっと戸惑いながら、

 「ここにはありません」

  と、だけ答えた。だが、一ヶ月以上もビールを飲んでいない私は、今回の出会いにかけていた。

 「じゃあ、どこにあるんですか?」

 「……私の家にならありますが」

 「家ですか……」

  この一ヶ月、毎日ビールの夢を見るほど、願望は膨れ上がっていた。モスリムの国。パキスタンでは、酒は禁物。だが、大使館の人は、特別なルートを持っていると、聞いていた…あくまでも、うわさだが。

  だが、夢は破れた。どれだけ想像したことか。喉を通過する冷たいビール。ゴクゴクと、喉を鳴らしながら体中を駆け巡るビール。

 「イスラマバードに行けば!大使館の人がいる!」

  そんな願望は、全て打ち砕かれた。だが、翌日ラホールに帰ると、俺の願望をかなえてくれる男が現れたのだった。

  イスラマバードから、ラホールのホテルに帰ると、俺を待っていたのは、

 「ウエルカム」

  ホテルのボーイたちであった。カモが帰ってきたと……。そして、ボーイたち以上に、俺の帰りを待ち望んでいたのは、シャヒットだった。以前にも書いたが、彼曰く、「タカオサンノ、サポートヲシマス」と、俺からお金をもぎ取ろうとする、日本滞在経験のある、住所不明無職。日本人の臭いをかぎつけては、日本人の世話をしながら、日本人に巣食う、不思議な人間。
 「タカオサン・オカエリナサイ」

 「おお!久しぶりだな!」

   と、言っても、五日ぶりくらいだった。俺がイスラマバードに行く前は、もう、俺が帰ってこないのではと、本当に心配をしてくれたものだった。なぜなら、金蔓を離したくないから。行ったら、帰ってこない――こんなことは、パキスタンでは当たり前らしい。

 「ワタシ・タカオサンニ・プレゼントアリマス」

  俺の帰りを、シャヒットは歓迎をしてくれていた。

 「何だよ!プレゼントって?」

 「ハイ・ビックリシマスヨ!」 

 「なに?何がビックリするの?」

 「タカオサンノ・スキナモノ」

 「なに?好きなもの?もしかして?もしかして?」

 「ハイ・モシカシテ?」

 「もしかして?もしかして?ビールか!?」

 「ハイ・ソウデス!」

 「でかしたぞ!シャヒット!」 私は、天にも昇る勢いだった。今まで、多額のお金を俺から巻き上げてきたシャヒットを、俺は……。

 「最高だ!!」

  一ヶ月以上ぶりのビール。もう、待てなかった!

※次回4月20日(水)更新となります。

abc123da at 23:52コメント(1)トラックバック(0) 

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1. Posted by malihas   2011年04月14日 07:40
やったぞ!ビール
でも。。。
美味しかったのでしょうか。。。

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