2011年04月20日

第22話 目前のビールが……

 俺は、天にも昇る勢いだった。今まで、多額のお金を俺から巻き上げてきたシャヒットを、俺は……「最高だ!!」と、抱きしめていた。

 一ヶ月以上ぶりのビール。もう、待てなかった!

「シャヒット!どこだ!どこだ、ビールは!」

「ミセニ・アリマス」

「はあ??」

 プレゼントと言ったのに、彼曰く、「ビールヲ・ウル・ミセヲ・ミツケマシタ」。要するに、ビールを持ってきたのではなく、ビールを売る店を見つけたことが、プレゼントだったのだ。

 さすがは、シャヒット!身銭は切らない、その性格は徹底している。でも、俺は、うれしかった。「ビールを売る店を見つけた」。この一言で、残り一ヶ月を…この国で生きる希望が沸いてきた。

「買って来い!早く買って来い!」

 俺はシャヒットに叫んだ。

「ナンボン・カイマス?」

「一本いくらだ?」

「200ルピーデス」

 200ルピー。日本円で400円くらい。ボーイの給料が一月100ルピー。高級ホテルのコーヒーが、一杯、10ルピー。高級中華料理を食いに行くと、まあ、50ルピーくらいかな?そう考えると、200ルピーとは破格の値段。国によって管理をされているため、さすがに高いのか?だが、俺はシャヒットに言った。

「10本買って来い!」

 合計2000ルピー。まあ、日本で缶ビールを10本買った程度なものなので、異国の地では安いものだ。シャヒットは、目を点にしていた。やはり、2000ルピーという大金を、久しぶりに目にしたためか、かなりの動揺をしていた。

 走り去るシャヒット。もしかして、2000ルピーを持って、もう、帰ってこないかも?でも俺は、シャヒットを待った――走れメロスを待つように。

「メロス!早く帰って来ておくれ!ビールをかついで!」

 待つこと三十分。「走れシャヒット」は帰ってきた。

「カイマシタ!」

 2000ルピーを持って、住所不定無職のシャヒットは帰ってきた。ビニール袋に入った黄金の液体。夢にまで見たビール。シャヒットは、ゆっくりとテーブルに置くと、満面の笑みで俺に話しかけた。

「ウレシイデスカ?」

「お前は最高だ!」

 これまで、どれくらいの金を、彼に巻き上げられただろう?でも、過去は全て、水に流す。目の前の、黄金に光るビールを見たら、彼の性格から行動まで、何でも許せた。

 そして俺は、袋の中に手を入れた。冷えていない、生ぬるいビールのビンをつかむと、一気に取り出し、ラベルを見た。そこには……そこには……「ハイネケン」と、書いてあった。ハイネケン……?

「そうだ!オランダのビールだ!」

 俺は、シャヒットに叫んでいた。

「よくやった!シャヒット!」

 そして、俺はウェストバックから財布を取り出し、10ドル紙幣をつかむと、

「取っておけ!」

 と、かっこいい言葉で彼を慰労した。日本円で約1000円。でも、パキスタンでは、夢の10ドル紙幣。闇の交換所に行けば、通常レートの2倍にも3倍にもなる。シャヒットは、その金をつかむと、満面の笑みを浮かべながら、「グッドラック」と、一言だけ言い残して走り去って行った。

※次回、第23話は4月27日(水)更新となります。

abc123da at 23:08コメント(0)トラックバック(0) 

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