2011年04月27日

第23話 黄金の液体の正体…

 さあ、一ヶ月ぶりのビールが手に入った。いくら金を積んでも、手に入りにくい、夢の黄金の水…ハイネケンビール。俺は、とりあえず風呂に入った。死体のホルマリン漬けが入るような、バスタブに体を横たえると、時間をかけて、ゆっくりと汗を流した。

 窓の外を見ると、既に夕暮れ……ソファーに腰掛け、ホテル前の公園を見ながら、冷蔵庫には、十本のハイネケンビール。これ以上の設定はない。

(一ヶ月、大変だったな!!)

 心の中で、ささやきながら、ビールをつかむと、栓(キャップ)を力いっぱいひねった。ジュワ――と、弾ける泡!ビンの中からあふれる気泡!この一ヶ月では味わえなかった、至福のときへと、俺は突入して行った。

  キラキラと、黄金色に輝く液体。その中を、気泡が宝石のように漂っていた。俺は、瓶の口を自らの口に引き寄せると、そっと口につけた。まだ、瓶は傾けていない。この瓶を傾けさえすれば、俺の口の中には黄金の液体が入ってくる。

 そして、そしてとうとう…瓶を傾ける時が来た。ゆっくりと右手を上げながら瓶を床と平行な角度に傾けると、俺の唇には、黄色い液体がドクドクと流れ込んでいった。ジュワ!と、唇を襲う液体。その唇の感覚を慶びながら、俺は瓶を必要以上に傾けた。ドワーと、口内に流れ込む黄金の液体を、口内が一杯になるほど注ぎ込むと、次の作業……咽喉から胃袋に流し込んだ。

「グビビ!」

 胃袋は悲鳴を上げていた。久しぶりに出会う衝撃的な液体に、どう対処して良いのか?胃袋は困っているものの、胃袋を通過した黄金の液体の、成分であるアルコールは、十二指腸、小腸を通過して、一気に血液内に吸収され、俺の大脳を揺るがし始めた。

「うめえ!」

 パキスタン、ラホールのとあるホテルで、日本人がただ一人、回教の国では禁止をされている…いや、正確に言えば、外国人は、指定されたホテル及び、自分の部屋ではOK。

 やっと手に入れたビールを、あたかも聖水のように味わう男一人。俺は、瓶から一度唇を離したが、二度目に付けたときは、全てを一気に飲み干した。冷蔵庫には、残り九本のビール。なくなれば、また買えばいい。一気飲みは体に悪い。だが、そんなことは気にしなかった。一ヶ月ぶりのビールを胃袋に流し込むと、俺は立て続けに、二本目のビール瓶を手にした。

 外は既に、暗くなっていた。いつも見る風景は、夕闇にゆがんで見え、俺の目は充血し、すきっ腹に染み渡る液体の中のアルコールは、体中を駆け巡っていた。

「最高!……」

 外の気温は、夜だというのに、三十度を超え、窓から見える人々は、慌しく動いていた。
二本目の瓶に口を付けると、この一ヶ月の様々な事が思い出されてきた。空港で、数々のものを奪われたこと…ホテルの宝石店に強盗が入ったこと、トイレの蟻塚……。

 ラワールピンディーのタクシー。そして、イスラマバードでのデモンストレーション。ハイネケンビールを片手に、窓の外を見ながら、この一ヶ月が頭の中を駆け巡った。もう、だめだった。久しぶりのアルコールは、俺の大脳を震度5までに追い込み、目はかすみ、視力不能。でも、一ヶ月ぶりのビールだ…ここで、引くわけには行かない!

 俺は、三本目のビールを開けた。ビール三本なんて、なんてことはない……日本であれば。でも、ここはパキスタン。アルコールを抜いて、約一ヶ月。内臓はアルコールの感触を忘れ、肝臓はピンク色。

 もう……もう……眠くてしょうがなかった。その時の時刻は夜の八時。寝るのにはまだ早い。それに、夕飯も食べていない。ビールを飲んだ後に、中国料理の店にでも行こうと思っていたのだが、もう、その気力はなかった。

(さあ、寝よう…)

 なんていう意識もなかった。ただ…ただ俺は、酔いに任せてベッドに横たわると、深い眠りについた。この一ヶ月では、感じたことのない、身も心も満たされた充実感を覚えながら深い眠りへと入っていった。

だが……



続く…

※次回、第24話は5月4日(水)更新となります。



abc123da at 22:06コメント(0)トラックバック(0) 

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