2011年05月12日

第25話 電話局はドル交換所?

 さて、一ヶ月も過ぎると、さすがに日本が恋しくなって来た。と、言うより、家族……つまり、妻の声が聞きたくなってきた。だが、1993年当時は、携帯電話などはなく、今のように、世界中どこでも、お金さえ出せば、会話が出来る環境ではなかった。

 ホテルの電話なんて、問題外!いくら、番号を押しても、フロントのスタッフと協力しても、「プロブレン」の連発。どういう事情なのか知れないが、日本への電話など、大使館にでも行かなければ不可能だったのか??だが!だが、だが!!何と!選手の中に、電話局勤務のやつを発見した…偶然。

「お前!!電話局か??」

 日本語で叫びながら、右手を耳に当てて、いかにも電話をするような真似をしながら、俺は叫んだ!!彼は日本語などわからない。だが、右コブシを、耳に当てながら、「テレホーン」と、叫ぶ俺に、何かを察したのだろう?俺が何度も「テレホーン」と叫ぶ姿を見て彼は、「イエス・テレホーン」と、答えてくれた。語学力がなくても、必死になれば、何とかなる!今でも俺の信念だ!!

 そして、俺とその生徒は練習後、彼の勤める電話局へと向かった。道場から、時間にして約十五分。輪タク。わかるかな? バイクの後ろに、荷台の様なものがついて、二人も乗れば一杯。約10ルピーを払うと、市内ならどこでも行ってくれる、便利な乗り物。

 それに乗って、電話局に到着をすると、やはり、門には守衛が。手には旧式のライフルを持ち、俺のほうをにらんでいた。社員であるはずの選手は、守衛に俺の身分を説明すると、彼の、レッツゴーという合図で俺は門をくぐった!!

 その瞬間!ライフルの銃口が、俺のほうに、口を開けていた。体は凍りついた…この国に来て、何度もライフルの中をくぐってきたが、銃口を、約一メートルの距離で見たのは初めてだった。普段であれば、日本語で勢いよく叫ぶのだが、完全にビビッているときは、悪いが日本語も出ない。今まで勢いが良かったのは、恐怖の極限に達していなかったからだ。だが、その時は完全に達していた。そして、守衛はゆっくりと、近づいてきた……。

「アーユージャパニーズ!」

「……イエス…」

 なにが言いたいんだ!!そして、選手と何やら話し始めた!銃口が向いていたのは、ただ、手に持っていたからか?偶然俺に向かっていたのか??だが、明らかに俺に話があるようだった。守衛と選手は、ないやら二人でもめているようだった。俺を必死に守ろうとする選手。俺に何かを仕掛けようとする守衛。そして、三分も話していると、守衛と共に、選手は近づいてきた。そして……

「ドルとルピーを交換してください」

 みたいな?英語で言ってくるではないか。

「なんで???」

 電話局に行って、ドルの交換??ここは、銀行ではないよな。だが、すぐに状況はつかめた。電話局の前の通りには、なにやら怪しげな若者たちが……手にはルピー札を持ち、パキスタン人や、アジア系、ヨーロッパ系を問わず、なにやら会話をしていた。つまり、ここは、闇の通貨交換ロード。守衛はそれを知っていて、俺にルピーとドルの交換を求めてきた。

 銀行よりも、若干高めに交換し、闇のルートで高く交換して、利ざやを稼ごうという手段か??だが、俺はこの話に乗ることは出来なかった。なぜなら、それ以前に、ドル対ルピーの交換相手は決まっていたからだ。パキスタンでは当時、外貨の持ち出し制限されていたのか?一度に交換できるお金に制限がかけられていたのか?真相はわからないが、選手はそう、説明をしていた。なので、選手は俺のドルをめがけて、争って交換を要求してきた。

 俺は、特にこだわりがなかったので、選手のためにも、必要に応じてドルを交換していった。とにかく、電話局に行ったはずなのに、門では銀行のような洗礼を受け、やっとの想いで俺は電話局の中に入っていった。

※次回、第26話は5月18日(水)更新となります。



abc123da at 22:25コメント(0)トラックバック(0) 

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