2011年05月26日
第27話 あいつの正体は?
滞在一ヶ月も過ぎると、一人平気で外に出かけるようになった。何の目的があるわけではない。ただ、練習以外の仕事があるわけでもなく、昼寝も飽きた頃、ホテル周辺を散策し始めただけだった。
目の前にある公園では、クリケットというパキスタンの国民的スポーツをしている少年たちがいるが、何度見ても、ルールを理解することが出来ない。テレビでは連日、クリケットの試合が放映されていたがルールがわからないので、見ても面白くともなんともない。
一人でプラプラと歩くと、いつの間にか物乞いの少年少女たちが、俺の後に列を成していたが、その行列も気にならなくなっていた。
道路には、沢山の車が走っていた。車の多くが日本製で、主に業務車両として使われていたと思われる、日本製の車が沢山走っていた。
歩いていると、バスが止まった。そのバスのボディーには、「割烹・・・住所・千葉県柏市・・・」と、なんとも感慨深いような、笑えるような・・・異国のパキスタンで、日本語に出会う機会は少なかったが、ひらがなや漢字は笑えるほど沢山見ることが出来た。
関東一円の料理店。建設会社の名前が書かれた車やバス。滞在間もない頃は、これらの車を見るのが楽しみだった。でも、この車。日本の廃車??それとも、・・・・車??まあ、詮索することもしなかった。
車と平行して、リキシャ。前にも説明したが、バイクの後ろに荷台をつけ、そこに乗るタイプの車。現地ではチープな乗り物だが、俺は気に入っていた。最後は、専属のリキシャを従え、町中を走り回っていた。
そして、びっくり!町の中には、馬車も走っていた。この馬車は主に、荷物を運んでいるようだが、信号のある道路を荷物を満載した馬車が、なん頭も走っていたのだ。日本では、見ることが出来ない。
いや、戦後はそうだったのだろうか?この馬が、日本では見たことのない種類だった。当然だが、サラブレッドなどではない。馬体が小さいが、日本の在来種のように太ってがっちりしているわけでもない。多分、アラブ種という馬かな?日本でも、昭和の頃は、地方競馬でアラブ種の馬は走っていた。だが、日本在住のアラブ種よりも、かなりやせているような。そんなやせた馬が……満載の荷物を引きながら、苦しそうな目をして車道を走っていた。
一度その馬車が、交通事故を起こしている場面を見た。瞬間を見たわけではない。タクシーの窓から見えた馬車。あ!嘘をついた。専属のタクシーにはドアがなかった。窓ではなく、左の空間(ドアの部分)から見える馬。アスファルトの上で膝まつき、立ち上がることの出来ない姿で苦しんでいる馬。荷台からは、無数のオレンジが、車道一杯にこぼれ落ちていた。この馬は、多分骨折でもしていたのだろう。立ち上がることが出来ない。だが、飼い主は、必要以上に、馬をムチでたたいていた。商品を台無しにされたためか…それとも、なにか違う目的があったのか。人間が、食べていくのに精一杯の国で、馬の心配をするのはおかしいかも知れないが、あの馬の、悲しそうな目を見た瞬間、貧困は、人間だけではなく、動物にも影響をしていると…やるせない気持ちになった。
そして、ホテルに帰り、相変わらずバカの一つ覚えのように、中華料理店にスープヌードルとエッグフライドライスを食べにいこうと歩いていると、俺の50メートル前に、日本では絶対に出会えない。いや、正確に言えば、動物園にはいる。車道に馬がいても、日本製の中古車が沢山走っていても、車道がへこんでいても、ドアのないタクシーがあっても、何があっても、もう、驚かないと決意をしていた。
だが・・・俺の目の前50メートルに、飼い主か?それとも、猛獣使いか?とにかくわからないが、日本では絶対に、車道では出会えない物体が、ノシノシと、歩いてきた。
「ヤバイ!!死ぬかも!!!」
今回ばかりは、死を覚悟した。ライフルを見ても、慣れればどういうことはなかった。だが、相手は人間ではない理性のかけらもない。そいつとの距離は、30メートルに迫っていた。
俺は確信した。俺に迫ってくるのは、やはり、あいつだと。あいつの正体は???
※次回、第28話は6月1日(水)更新となります。
目の前にある公園では、クリケットというパキスタンの国民的スポーツをしている少年たちがいるが、何度見ても、ルールを理解することが出来ない。テレビでは連日、クリケットの試合が放映されていたがルールがわからないので、見ても面白くともなんともない。
一人でプラプラと歩くと、いつの間にか物乞いの少年少女たちが、俺の後に列を成していたが、その行列も気にならなくなっていた。
道路には、沢山の車が走っていた。車の多くが日本製で、主に業務車両として使われていたと思われる、日本製の車が沢山走っていた。
歩いていると、バスが止まった。そのバスのボディーには、「割烹・・・住所・千葉県柏市・・・」と、なんとも感慨深いような、笑えるような・・・異国のパキスタンで、日本語に出会う機会は少なかったが、ひらがなや漢字は笑えるほど沢山見ることが出来た。
関東一円の料理店。建設会社の名前が書かれた車やバス。滞在間もない頃は、これらの車を見るのが楽しみだった。でも、この車。日本の廃車??それとも、・・・・車??まあ、詮索することもしなかった。
車と平行して、リキシャ。前にも説明したが、バイクの後ろに荷台をつけ、そこに乗るタイプの車。現地ではチープな乗り物だが、俺は気に入っていた。最後は、専属のリキシャを従え、町中を走り回っていた。
そして、びっくり!町の中には、馬車も走っていた。この馬車は主に、荷物を運んでいるようだが、信号のある道路を荷物を満載した馬車が、なん頭も走っていたのだ。日本では、見ることが出来ない。
いや、戦後はそうだったのだろうか?この馬が、日本では見たことのない種類だった。当然だが、サラブレッドなどではない。馬体が小さいが、日本の在来種のように太ってがっちりしているわけでもない。多分、アラブ種という馬かな?日本でも、昭和の頃は、地方競馬でアラブ種の馬は走っていた。だが、日本在住のアラブ種よりも、かなりやせているような。そんなやせた馬が……満載の荷物を引きながら、苦しそうな目をして車道を走っていた。
一度その馬車が、交通事故を起こしている場面を見た。瞬間を見たわけではない。タクシーの窓から見えた馬車。あ!嘘をついた。専属のタクシーにはドアがなかった。窓ではなく、左の空間(ドアの部分)から見える馬。アスファルトの上で膝まつき、立ち上がることの出来ない姿で苦しんでいる馬。荷台からは、無数のオレンジが、車道一杯にこぼれ落ちていた。この馬は、多分骨折でもしていたのだろう。立ち上がることが出来ない。だが、飼い主は、必要以上に、馬をムチでたたいていた。商品を台無しにされたためか…それとも、なにか違う目的があったのか。人間が、食べていくのに精一杯の国で、馬の心配をするのはおかしいかも知れないが、あの馬の、悲しそうな目を見た瞬間、貧困は、人間だけではなく、動物にも影響をしていると…やるせない気持ちになった。
そして、ホテルに帰り、相変わらずバカの一つ覚えのように、中華料理店にスープヌードルとエッグフライドライスを食べにいこうと歩いていると、俺の50メートル前に、日本では絶対に出会えない。いや、正確に言えば、動物園にはいる。車道に馬がいても、日本製の中古車が沢山走っていても、車道がへこんでいても、ドアのないタクシーがあっても、何があっても、もう、驚かないと決意をしていた。
だが・・・俺の目の前50メートルに、飼い主か?それとも、猛獣使いか?とにかくわからないが、日本では絶対に、車道では出会えない物体が、ノシノシと、歩いてきた。
「ヤバイ!!死ぬかも!!!」
今回ばかりは、死を覚悟した。ライフルを見ても、慣れればどういうことはなかった。だが、相手は人間ではない理性のかけらもない。そいつとの距離は、30メートルに迫っていた。
俺は確信した。俺に迫ってくるのは、やはり、あいつだと。あいつの正体は???
※次回、第28話は6月1日(水)更新となります。