2011年06月15日
第30話 疑惑の郵便料金
その日は、暇な時間を使って日本に手紙を書いていた。先生方やお世話になっている方々に(当時はメールはほぼ普及していない時代)
その時、ドアをノックする音が。俺はドアを開けると、そこに立っていたのは、シャヒットだった。シャヒットと会ったのは、あの、ビール事件以来だった。
「タカオサン・オヒサシブリデス・ゲンキデスカ?」
満面の笑みを作りながら話すシャヒット。この前の、騒動など知る由もなく、俺を騙したことなど何のその、堂々とした姿で現れた。俺は、先日のビール事件のことを話そうと思ったが、あまりにも、彼の悪びれない態度に圧倒され、何事もなかったように彼を受け入れていた。
「どうしたんだ?」
「ハイ。タカオサンガ・コマッテイルノデハ・ナイカトオモッタノデ」
何という嗅覚!こいつは、金の臭いでもするのか?俺は今、初めて郵便局に行こうとしていた。だが、場所は知っているものの手続きが面倒くさいので、シャヒットの姿を見て、彼に代行させようと考えていた。いくばくかの手数料を与えて……
「手紙を書いているんだけど、郵便局に行ってくれない?」
俺は、シャヒットに頼んだ。だが、シャヒットは、何故か考え事をするように、天井を見上げて何かを思案していた。そして、
「タカオサン・パキスタンノ・ユウウビンキョク・ダメデス」
「はあ?何がだめなの?」
「ダメデス!ダメデス!!」
「なにが???」
「デンジャラスデス」
「なにが?」
彼の語学力でも、説明をすることが難しいらしく、彼は身振り手振りで説明をしてきた。要約すると、パキスタンから日本へは、手紙が届く確率が低い。そして、悪い職員になると、切手をはがすやつもいる。そんな説明だったと思う。
「だったらどうするの??」
「ワタシノトモダチガ・ペキンニイキマス」
「それで?」
「ペキンカラ・オクリマス」
「なんで?」
「ペキンハ・カナラズ・ダイジョウブデス」
「そんなものなのか??」
だが、せっかく書いている手紙。届かないと言われれば、そうなのかもしれないと、不安になってくるのは、この一ヶ月の経験が裏付けていた。
「じゃあ、頼むよ!!でも、いくらするの??」
友人を通じて北京から郵送するのには、それなりのお金がかかると思っていた。だが、たかが手紙二通。国際郵便で日本から出せば、二通で500円以内で地球の裏側まで行くのではないか?そう思いながらシャヒットに聞くと、シャヒットは…腕を組んで考えながら口を開いた。
「ヒトツ・1000ルピーデ・タノンデミマス」
「はあ?1000ルピー???」
日本円で2000円。さすがに俺も、この値段を聞いたら、今回ばかりは騙されないと覚悟をした。だいたい……この前俺から、偽のビールを買ってきて数千円も巻き上げたくせに、こいつには、反省と言うものがないのか。破格の値段を突きつけられた俺は、今回ばかりは「OK」とは言えなかった。さすがに、ニ通で2000ルピーと聞いたら、だんだんと、イライラしだした。
「2000ルピーは高いだろう!」
「デモ、アンゼンニ・オクリマス」
確かに、日本に届いて欲しい。だが、法外な値段には、もう騙されない。ここからが、駆け引きだ!俺の出方を見て、シャヒットも値を下げてくるだろう。そこで、今回は俺が先手を仕掛けた!
「二通で100ルピーだ!」
「エ…ソンナ……」
シャヒットは、いきなり十分の一まで値を下げる俺の手法に、多少、戸惑っていた。
「ワカリマシタ・ニツウデ・1000ルピーデイイデス」
いきなり半値に下げてきた。今回ばかりは、俺の勝ちかも知れない……俺は、心の中でうれしくてしょうがなかった。
(初めて、シャヒットに勝てる!)
そう思うと、俺は目標を300ルピー(600円)に決めた。
「よし、それなら150ルピーだ!」
「タカオサン・ソレハヒドイデス」
盗人猛々しいとはこのこと
(お前はいったい、今まで俺からどれくらい巻き上げたんだ!)
「だめだ!これ以上譲れない!」
「……ワカリマシタ。500ルピーデイイデス」
また値段を下げてきた。だが、俺はあくまでも300ルピーにこだわった!
「だめだ!200ルピーだ!!」
シャヒットは、俺の前で、初めて困った顔を見せた。そして、なにやら思案をしていた。
つづく…
※次回、第31話は6月22日(水)更新予定となります。