2011年06月28日
第32話 カラチの悪夢
今日から三日間、カラチに出張だ。最初に成田から到着をしたカラチ空港。スーツケースの中身を盗まれ、良い思い出など一つもなかった。
俺はカディールと共に、ラホール空港からカラチへ向けて飛び立った。それにしても、国内線というのはどの国に行っても気持ちのいいものではない。国内線の飛行機会社には悪いが、信頼度が薄い。
そして、カラチに到着。一ヶ月ぶりに来たカラチ空港。俺たちはそそくさとタクシーに乗り込み、ホテルに向けて出発をした。それにしても、大都市カラチ。パキスタンで一番大きい都市であり、とにかく、スモッグがすごい。排気ガスとホコリ。歩いていると、鼻の穴が塞がりそうだった。
そして、物乞いの集団の迫力がすごい。ラホールでもビビッタが、カラチの物乞い集団は、比べ物にならなかった。タクシーに乗り込んで、信号待ちをしていると……タクシーの中に外国人らしき人間がいると確認をすると、容赦なく車道を横切って、俺が乗るタクシーに近づいてきた。そして、ドアを
「ドンドンドンドンドン」
と、常識では考えられないほどの強さでたたくのだった。タクシーの運転手は、
「sgayskysja!!」
と、多分、「てめえ!!ふざけんじゃねえぞ!!」とでも、叫んでいたのだろう。俺の顔をじっと見つめ、左手を出しながら、右手で窓をたたいていた。悪いが、日本ではそのような経験はない。それに、迫力が違う。生きることに必死な人の、俺からいくばくかの金をもらおうという意欲は、日本では絶対に見ることの出来ない行動だった。
今回の仕事は、カラチの柔道家に対する指導。パキスタン最大の都市?カラチ。さぞかし立派な道場があるだろうと、俺は楽しみにしていた。
ホテルに到着をして荷物を部屋に置くと、俺とカディールは、道場を目指してタクシーに乗った。
「道場は畳があるの?」
「ノー・アリマセン」
「また、マット??」
「カラチノマットハ・グッドデス」
「なにが?」
「レスリング・マットデス」
レスリングマット?レスリングの経験がない俺には、そのマットがどんなものなのか、予想もつかなかった。タクシーは体育館に到着した。
「なんという…立派な体育館だ!」
ラホールでは、畳もない粗末な道場で練習をしていたため、カラチの体育館は、夢のような世界だった。
「やっと、レベルの高い場所で指導が出来る!!」
俺は喜び勇んで体育館の玄関に入った。そして、カディールを無視して、アリーナに入ろうとすると……
「タカオサン・チガイマス」
「はあ?」
それにしてもこの一ヶ月、カディールの日本語は上達をしていた。毎日俺と会話をしていると、頭のいいカディールは、です・ます・などの文法を思い出し、最初に会ったときよりは、まともな日本語を話せるようになっていた。
「どこでやるの??」
「ニカイデス」
「二階??」
「ソウデス」
アリーナで練習をするかと思いきや、やはり……甘かったか!
「サブアリーナか??」
カディールの二階という言葉に、俺は二階のサブアリーナを想像した。
(せっかく日本から来たのに、サブアリーナか!!)
多少、がっかりしながら、俺は二階へと階段を上った。
(サブアリーナか!せっかく大きな会場で!!)
とぼとぼと、階段を上がると……
「はあ?…マジで!!」
階段の向こうに見えたものは!!
「それはないだろう!!」
またもや…パキスタンの厳しさを思い知らされることに…