2011年07月20日
第35話 最後の戦いへ突入
カラチの旅は辛いだけだった。イスラマバードも嫌な想いでしかない。やはり、ラホールが一番だ。二日後、俺はラホールに帰った。俺に残された日数は、あと十日。長かったような、短かったような…辛いことはあったものの、あと十日と思うと感慨深いものがあった。
ラホールに帰ると、俺の帰りを喜んでくれるのは、ホテルのボーイとシャヒットだった。現金製造機のような俺がいなくなると、彼らの懐も寂しくなるらしい。シャヒットは、
「タカオサン!サビシカッタデス!」
と、本当に涙を流していた。彼の懐がよっぽど寂しかったのか…本当に涙ぐんでいた。ハイエナたちに、殺されない程度に生かされている獲物の俺も、この頃になると、何が真実なのかを見分けることが出来るようになっていた。シャヒットはまた、話始めた。
「タカオサン・リコンファーム・シマシタカ」
「はあ?リコンファーム?それなに?」
「カエリノ・ヒコウキノチケット」
「ああ…そうだ!確認してないよ」
珍しく的確なアドバイスをしてくれたシャヒット。この国では何が起こるかわからない。俺はシャヒットと共に、相変わらずドアのないタクシーをチャーターして、PIA(パキスタン航空)のラホール支店へと向かった。海外でこのような手続き確認をすることは、本当に面倒だ。だが、こういう時に、シャヒットは全力で働いた。相変わらず雑音の多いウルドゥー語で、シャヒットは航空会社の従業員と話していた。しかし、10分経っても、話が終わりそうにない。
「どうした??」
俺がシャヒットに聞くと
「ハイ・タカオサンノ・チケットガ・ナイデス」
「はあ?どういうこと?」
「タカオサンノ・ナマエガ・ナイアリマセン」
「………」
「ドウシマスカ?」
どうしますかと言われても、このチケットを手配したのは監督のカディール。俺とシャヒットはタクシーを道場に向け、カディールに問いただすべく道を急いだ。だが、ちょっとした用事を思い出し、一度ホテルへと立ち寄ることになった。そして、ホテルのフロントの前を通過したとき、
「ミスタータカオ!」
と、フロントスタッフが呼び止めるではないか!
「どうした?」
帰国まであと十日。俺の周りでは、最後の事件…いや、最後の闘いが始まろうとしていた!
(いったいどうしたんだ?)
フロントに話しかけることはあっても、フロントのほうから話しかけられた事はない。
「シャヒット!ゴー!!」
「イエッサー!」
シャヒットはこういう時に、本当に役に立つ。
「gtu,dyhgkjh]
フロントとシャヒットは、とげのあるウルドュー語で激しく会話をしていた。明らかに、俺に何かを要求しているようだった。そして、シャヒットは俺の元に帰ってきた。
「タイヘンデス」
「どうした!!」
「ホテルノ・オカネヲ・ハラエト・イッテマス」
「はあ?ホテルのお金?なにそれ??」
「ハイ・タカオサンノ・ホテルノオカネ・ハラワレテイマセン」
「はあ??ホテルの料金はパキスタンもちだよ!!」
「ハイ・フロントモ・ソウイッテイマス」
「じゃあ、大丈夫だろう!」
「デモ、ハラッテクレソウニ・ナイヨウデス」
「俺に言われても!!」
「1000ドルホシイト・イッテイマス」
「はあ?1000ドル??それでは契約が違うよ!!」
「ワカリマシタ・500ドルニサセマスカラ・100ドルクダサイ」
さすがはハイエナ!言うことが違う!!
「いやだ!俺は払わないぞ!」
つづく…
次回、第36話は7月27日(水)更新予定となります。