2011年08月03日

第37話 民家のリコンファーム

 俺は怒りに震えていた。とにかくこの一ヶ月以上、カディールのいい加減なスケジュール調整、いい加減なアドバイス、そして、今回の金銭問題。いったい、何がどうなっているのか。そして、十数分後、カディールの車はある一軒の家に到着した。

「チョット・マッテクダサイ」

 カディールは車を降りると、すたすたと歩き出した。だが、すぐに俺の乗る車に戻ると、

「パスポート・オネガイシマス」

「はあ?パスポート?」

 命の次に大事な現金の次に大事なパスポートを貸せと言う。外国で、パスポートを貸していいものか?パキスタンでパスポートを預けていいものか?もう、ここで俺の足跡は無くなるのか?この日を持って、パスポートと共に……様々な予測をした。

「パスポートヲ・クダサイ」

「パスポートはあげないよ!」

「スイマセン・カシテクダサイ」

 それにしても、この数ヶ月、カディールの日本語の上達振りはすごい。俺との会話で、どんどんと上達していく。

「このパスポートをどうするの?」

「リコンファームデス」

「はあ?ここは、パキスタンエアーではないよ!」

「ダイジョウブデス!パキスタン・ダイジョウブデス!」

 カディールは困ると、いつもこれだ。だが、彼の言うとおりにしなければ、帰りのチケットを手に入れることは出来ない。そう考えると、渡すしかなかった。

「タカオサンハ・クルマデ・マッテクダサイ!」

「わかった!」

 どうして俺が、ここで待たなくてはいけないのか?どうして、一緒に行けないのか?などなど……様々な疑問があるものの、とにかくここは、帰りのチケットを手に入れるために、カディールの言うことを聞くしかなかった。

 カディールは民家に入っていった。俺は車の中で待つのみ。いい加減に舗装された道路は、デコボコだらけ。パキスタンニしては高級住宅地だろう。だが、歩いている人はいなかった。その、閑散とする風景が、余計に不安をあおった。

 だが、カディールは、10分経っても、20分経っても、帰ってこなかった。時間が経つにつれて、不安は増していくばかりだった。そして、30分が過ぎた頃……カディールは帰ってきた。

「ダイジョウブデス・リコンファームデキマシタ」

「本当に大丈夫か!?」

「ダイジョウブデス」

 それにしても……こんな話を聞いたことがない。航空会社に行って、予約確認をしたら、「予約はされていません!」と、言われたのに、とある民家に行って、「予約は大丈夫だ」と。

 空港で荷物を盗まれ、ホテルで所持品を盗まれ、様々な体験をし、最後はこれだ。もう、何を信じていいのか……。

 だが、帰国まで10日を切っていた。俺は、様々なことがあるものの、日本に帰れることを夢見ながら、日本に帰ったら、「全てを水に流そう」と、平和な日本に育った、平和ボケした人間特有の感情を丸出しにして、帰国を夢見ていた。

 もう…なにがあっても驚かない。たとえ、衝撃的な出来事があっても、動揺はしない。帰国という夢は、心を前向きにしていた。だが、最後の闘いは迫っていた。あんなに恐ろしい事が……日本では経験できない、あんなに恐ろしいことが…

つづく…


次回、第38話は8月10日(水)更新予定となります。



abc123da at 22:41コメント(1)トラックバック(0) 

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コメント一欄

1. Posted by ハイジ   2011年08月04日 08:13
「パキスタン」、「ブログ」、の検索キーワードで高尾さんのブログにたどり着きドキドキしながらここまで一気に拝見しました。とても大変な経験をされたんですね。私の会社もパキスタンのとある会社と取引が始まったので平和になったら一回いっとこうかなと思っていましたが、行くには勇気が入りますねw 続編楽しみにしています^^

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