2011年08月17日
第39話 初めてのおつかい
その時だった…玄関のドアが開く音がしたのは。そして、ドアの向こうから出てきたのはキャプテンである、ジャンギルの家族。ジャンギルの家族は、小奇麗な格好をして、この店に入ってきた。
その瞬間、七人の選手たちは「隠れろ!」と言わんばかりに、テーブルの下に身を隠した。何故か俺も、身を隠した……(なぜだ!?)。単なる反射に過ぎないのだが、ジャンギルは、俺たちからは見えない奥の個室に入っていた。
どの国に行っても、先輩とか、キャプテンとか、先生とか…嫌いではなくても反射的に遠ざけてしまう存在はいるようだ。
パキスタン紀行も、残すところわずかになった。最後の一週間、俺は選手と共に、買い物に出かけた。目指すは革ジャン。当時の日本では、スタジャンでも2万円くらいで、革ジャンになると、10万円近くしたのではないだろうか?今でこそ、ダウンジャケットとか、かっこいいジャケットが安価で買えるが、当時はユニクロなどの量販店がないため、上野アメ横で買っても、安くはなかった。
俺は選手と共に革製品を売る店に行った。さすがにパキスタンでも、5万円は下らないだろうと店に入り、様々なジャケットが陳列されている中で、俺は黒のジャケットを選んだ。値札はついていない…
「ハウマッチ?」と、聞くと、「エクスペンシブ!」と、言うではないか。さすがにパキスタンでも革のジャケットは……と、不安になっている瞬間、店主から伝えられた値段は……「2500ルピー!」と、胸を張って言うではないか。
日本円で5000円程度だ。その瞬間、俺の感情は高ぶった!
「もっと見せろ!!」
結局俺は、五着もの革ジャンを買ってしまった。辛いことは多々あったものの、俺は喜びに満ちていた。日本で買えば、数十万円もする買い物を、たった二万円程度で手に入れたことを。だが、この革ジャンが、最後の最後で、俺を苦しめることとなった……。
※次回、第40話は8月24日(水)更新予定となります。