2011年08月31日
第40話 落ちた先はコンクリート
帰国まで後三日。最後の稽古がおこなわれた。選手はいつもより気合が入っていた。
「先生!最後に、飛び十字固めを見せてくれ!」
そんな英語だったと思う…
「飛び十字固め?」
それが正式名称なのか?それとも俗称なのか?確かではないが、そんな技を見たことはある。確か、田所先輩がやっていたな。わずかな記憶だけで、やったこともない、飛び十字固めをやることになった。それにしても、パキスタンは飛び技や、派手な技が好きだ。
俺はジャンギルを立たせ、ジャンギルの左腕を持ちやったこともないのに空中に飛び、空中でジャンギルの腕に俺の脚を絡みつかせ、下のマットに俺の体が到達したときには、十字固めに入っているという技を見せた。
喜ぶ選手たち。本当に、派手な技が好きだ。そして、俺は空中に飛んだ…あの当時はまだ飛べた。ジャンギルの腕に俺の脚を絡め、
フィニッシュは……逆十字固め!
「ガツーーーン!!」
俺の後頭部に……火花が走った。着地をして、逆十字固めのはずが……目の前にいるジャンギルは、突っ立っていた。俺はというと、一人マットの上でオネンネ…腕は完全にすっぽ抜けていた。やったこともない技を、選手の手前、出来ないと言う言葉を吐けないで、やってみたものの見事に失敗。それにしても、後頭部に受けた衝撃は、半端ではなかった。
いったい、何が起こったのか?畳が無いとはいえ、ブルーシートのしたには、座布団のようなマットが幾重にも重なってあるはず。俺の目には、星が飛んでいた。チカチカとする目の前…後頭部の鈍痛…多少の吐き気…様々な症状を受けながら、なぜこういう痛みに襲われるのか、冷静に考えてみた。そして、行き着いた答えは……マットに何らかの不具合があるのではないか。
俺はブルーシートをはがした。そして、ブルーシートの下に見えたものは…
「マジ???」
コンクリートだった。座布団のような小さなマットは、見事に隙間を開け、一方に偏り、コンクリートをむき出しにしていた。表面にはブルーシートがかぶせられているため、目視では確認できなかった。悪いが、この環境でもナショナルチーム。チカチカする目をこすりながら、
「ワン・モア!」
と、叫ぶ俺がいた。選手達は、叫んでいた。
「ノー・サンキュー!」と。
コンクリートに負けてたまるか。俺の熱意が伝わった瞬間だった…
※次回、第41話は9月7日(水)更新予定となります。