2011年09月14日
第42話 最後の夜の訪問者(2)
ドアの向こうには、シャヒットが立っていた。
「どうした?」
俺の問いかけに、
「オワカレニキマシタ」
と、いつもとは雰囲気の違う様子だった。
「まあ、入れよ」
俺はシャヒットを部屋に入れ、ソファーに腰掛けるように即した。
「タカオサン・アスハ・ニホンデスネ」
「ああ…シャヒットにも世話になったな」
「ハイ・タクサン・オセワヲシマシタ」
「…………」
シャヒットの様子は、いつもと違っていた。普段は陽気に話すシャヒットを前にしているのに、その日は、何故か沈黙が続いていた。
ホテルの窓から見える公園には、誰一人見えなかった。車道には、車の数も少なかった。そして、シャヒットは語りだした。
「タカオサン・ワタシハ・イマ・オカネニ・コマッテイマス」
「どうしたの?」
「ニホンカラカエッテ・パキスタンニハ・シゴトガアリマセン」
「……今まではどんな仕事をしていたの?」
「ニホンデタメタオカネデ・ジドウシャノオミセヲシテイマシタ」
「そうだったんだ」
「デモ・ナカナカ・タイヘンデス」
「で……」
「タカオサン・ワタシハ・コノイッカゲツ・トテモガンバリマシタ」
「そうだよ、世話になったよ、ちょっとごまかしもあったけど」
「…………」
沈黙は続いていた。
「タカオサン・オネガイシマス」
「何を?」
「ドルヲ・クダサイ!」
「はあ?」
ものすごい直球だった。ドルをください。最終日にして、「ドルをください」。最後の戦いは、始まろうとしていた。
「なんで?……」
なんで、最終日の夜十時に訪れてきて、ドルを欲しいというんだ?
「タカオサン・ワタシ・タカオサンヲタスケマシタ!」
「だから、ありがとう!それに、いつも御礼をしていたよね!」
「デモ・コノニシュウカンハ・モラッテナイデス!」
確かに…この二週間、シャヒットは謝礼を要求しなかった。必要経費もかなり減額をしてくれていた。これは、俺に対する彼の愛情だと思っていたのだが……
(そうか……最後にそう来たか!)
ドルでまとめて要求する魂胆だったんだ!シャヒットの風貌(ふうぼう)は、いつもの様子ではなかった。いつもはニコヤカにしているのに、その日のシャヒットは明らかに獣の臭いがしていた……。
つづく…
※次回、第43話は9月21日(水)更新予定となります。