2011年11月02日

第49話 ノールールマッチ!

昭和の時代に柔道を始め、平成に至るまで、道場破りなど見たことはなかった。道場破りなどとは、漫画やドラマの世界でしか見ることのできない、架空の出来事だと思っていた。しかし、実際に道場破りを垣間見て……まさか、異国の地パキスタンで出会うとは…。

 その中の中心人物とも思える男と、俺は組み合った。しかし、相手はジャージ姿。どこを持っても柔道着とは違い伸び縮みして、なんともやりにくい展開となった。さて、この状況で何を掛けるか? 相手は、ものすごい圧力をかけてくるが、技を仕掛けてくる様子はない。何やら、目線は俺の脚元ばかり見ているので、足を持ってくるか、タックルでも考えていることは、安易に想像ができた。

 先手必勝。とにかく、自分から攻めに行くことを思案していた俺がとっさにくりだした技……それは、一本背負いだった。一本背負いであれば、背負う腕さえ完璧にロックできれば、ジャージ姿の相手でも投げることができるだろう。レスリングでも使われる投げ技でもある。

 左組の俺は、巨体の懐に飛び込んだ。そして、腰を回して相手の左腕に自分の左腕をからませて、なお体を回転させて投げを打った! 相手はうまく腰に乗っかり、巨体は俺の背中の上で見事に回転し、俺と相手はマットの上を一回転した。

 明らかに一本だった。自分で言うのもなんだが、見事すぎる一本背負いだった。勢い余り、俺も相手とともに回転し、両者は畳の上を転がって、天井を見上げていた。十分満足できる勝利に、周囲の教え子も沸き立っていた。

 初めて出会う道場破り。悪いけど、日本から柔道の指導に行って負けるわけにはいかない。相手がどれだけ大きくても、鍛え方が違う。日本でどれほどこの技を練習してきたか……素人同然のレスリング選手にかからないわけがなかった。

 そして、一安心しながら立とうとしたときだった……。

 投げ終わって勝利に酔っていた俺を、大男は離そうとしなかった。明らかに、一本、いや、それ以上の決まり方をして投げたはずなのに、大男は俺の体をつかんで離さず、グラウンドに持ち込んできた。

 投げたら終わりではないのか? ルールの打ち合わせなどしていない。だが、ここは柔道場。柔道のルールに則ってやるのが常識だろう。しかし、ここはパキスタン。俺の常識など通じるはずがなかった……。

 俺のバックについた途端、大男は俺の体を回してきた。レスリングで言うローリングのような技か? 俺は、大男のなすがままに体を回された。すると、先ほどまで意気消沈していたレスリングチームの集団から歓声が沸き起こった。

 投げて、勝ちと決めていた俺は、何がなんだかわからぬままに、大男の下敷きになっていた。大男は俺の両肩を攻めてきた。マットに俺の両肩をつけようとする力の意図が伝わってきた。もしかして、フォールを狙っているのか?

 いつしか、俺は相手の土壌に引き込まれていた。ノールールのままに下敷きになっている俺は考えた。このままでは、相手の圧力によりフォールを奪われてしまう。柔道とレスリングのルールが混同されているような、いないような……俺は決断した。

 もう、殺るしかないと……。 


つづく…


次回、第50話は11月9日(水)更新予定となります。



abc123da at 21:44コメント(0)トラックバック(0) 

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